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スマホから鳴り響く、うるさい着信音。強引に切って、大きく溜息をつく。窓から外を見れば、昼の街並みは美しく、イタリアの風景は、ここが日本からは遠い場所だと知らせる。昔いた東京は、高い建物ばかりの、無機質な世界で。けれど、今は違う。自分の頬を叩き、気持ちを奮い起こす。
「たまには、気分転換に行こうかな……」
──その日が、彼との運命の出会いの日だった。
天気の良い昼に街で散歩をしていたら、やぁベッラ!と後ろから声がかかった。振り返ると茶髪のイケメンが立っている。中性的な顔で、右側に分け目がある前髪と、くるんとしたハネ毛?があり、私に優しい笑顔を向けていた。スリを警戒し、私も笑顔を貼り付けたまま、一歩後ろに下がる。
「観光? 困ったな。天使にこの世界のチケットが買えるのか? 俺が代わりに買ってきてやるよ」
「……え、?」
「ほら、遠慮しないでいいぞ」
イタリアは歩いているだけで観光地が多すぎる。どうやら完全に私を観光客と勘違いしたらしいそのイケメンは、チケットを2人分すぐさま買ってくると、私に一枚差し出した。
「イタリア語だとわかんねえかな、日本語何だっけ、あっ、ドウゾ?」
「あ、ありがとう」
どうぞと言われ、ありがとうと咄嗟に日本語で返した。
「案内なら俺に任せろ!ここのことなら、なんでも知ってるぞ!」
一生懸命に身振りで任せろ!と伝えてくる。その姿、いや、すでに顔の良さで撃ち抜かれていた私は、日本語で「お願いします」と言った。
ここにはもう二回は来たことがある。聞き覚えのあるガイドが向こうから聞こえてくる。見覚えのある芸術品を見ながら、なんとなく日本人らしく、スマホで写真を撮ってみる。
「写真、君のも撮ろうか?」
ジェスチャーでも撮ろうか?と言ってくるので、渡して撮ってもらう。
「うん、やっぱり女神様みたいだぞ、ベッラ! いや、それにしてもホント美人だな……」
「……」
「そもそもナンパ成功したのいつぶりだ?最高についてんな俺……まあ星占い1位だったし」
シャッターをきりながらイタリア語で独り言を言う。全部聞こえてるし、わかる。本人は、私には理解できていないと思っているけれど。でも褒められて悪い気はしない。というか、警戒心が緩みまくってしまう……。
「このあとは、ジェラートでも食うか? 美味い店知ってるぞ」
「ジェラート?」
「そう、ジェラートな」
ゆっくりとジェラートと言ってくれる。何回日本人観光客をナンパしたんだ、この男。
遺跡を出たあと、私の知ってる道なので安心してついていくと、彼は私が今まで行ったことのなかった老舗ジェラート屋の親父に声をかけ、ニ人分を頼んだ。
「どの味がいいんだ?」
ニ個、指を指すようにジェスチャーをしてくる。ピスタチオとストロベリーを指でさし、ベンチに座っていると買って持ってきてくれた。
「ピスタチオはかかせねぇよな。見る目あんな」
「ありがとう」
「ん、ドウイタシマシテ」
「……あ、それ、バナナ?」
彼のフレーバーはピスタチオとバナナのようだ。失敗した。気づいていたら私もバナナにしていたのに。彼は私の言う日本語のバナナに気がついた。
「バナナ? ん、そうだぞ? 食べたいか?」
「……えっと」
「待ってろ、スプーンもう一個貰う」
そう言うとお店まで駆け出し、持ってきた新しいスプーンにバナナを乗せると、あーん、というように差し出された。
「……え」
「ほら、食えよ」
こ、こんな町中で……しかし、イケメンは一切引かず、私が食べるのを待っていた。
「あ、あーん……」
「ん、美味いか?」
少し食べ方に抵抗があったが、味はとても美味しい。頷いてから、お礼にイチゴ味はいる?とジェスチャーすると、
「気持ちはありがたいが、またスプーン持ってくんのめんどくせーし、俺はまた来れるからな。一人で食べていいぞ」
なんだか申し訳ない気がしながらも、自分のジェラートに向き合う。ふと魔が差して、私は持ってきてくれたスプーンを彼の手から取り、イチゴ味を乗せ、彼の口元に差し出してみた。
「えっ、やっ、あのっ、バカッ! いっ、行っちゃっていいのか!?」
もう私は後には引けないので、急に焦りだす彼の言動のギャップに笑いを堪えながら、無言で口元にスプーンを押し付けた。
「ンン゛ッ、じゃあ、貰うからな、いいんだな!」
彼は顔を真っ赤にしてからパクリと食べた。
「ん、この味も、うま……」
「……ボーノ?」
「ああ、すっごく、ボーノ……」
こっちから来られると恥ずかしいらしい。照れてそっぽを向いた顔が可愛い。でも流石に、そろそろ悪ふざけもやめよう、この人に悪いし……。そう考えて、ベンチから立ち上がる。
「どうした?」
ジェラートを食べ終わり、もう行くとジェスチャーすると、彼は少ししょんぼりとした顔をした。
「……もう行くのか?」
頷くと、そっか、楽しかったぞ、ありがとな。と別れの言葉を言われて、軽く"日本人らしく"深々とお辞儀をする。これ以上罪を重ねる前に早く退散しようと振り返ると、見覚えのある顔と目があった。この状況は……まずい。
「あ!! え、デートしてるの!?」
「……」
人違いですー、という顔をして過ぎ去ろうとするが、怒涛の勢いで喋る彼女は止められなかった。
「恋人はいないって言ってたじゃない! 嘘つかなくたっていいのに、ほんと酷い!」
「いや、このベッラは観光客だ、ぞ……?ん?誰?」
「やだ、彼氏さんには言ってないわ! はじめまして、私この子の腐れ縁、いや親友なの!ふふ、やっだもう!こんなイケメン捕まえるなんて!!サイコーじゃない!!!」
「??お、おう」
「今度ダブルデートでもする? 四人で海に行きましょうよ!」
無言で親友の手を掴み、必死に首を振る。
「……? どうしたの? 〇〇……」
「……だめ!だめ……!!」
本当にまずいと目を見開いて訴えるが、お気楽な彼女は何も察していなかった。
「ねぇ、彼氏さん名前は?」
「ロマーノ。悪いけど、俺は彼氏じゃないぞ」
「え? 彼氏じゃない……?」
「イタリアの観光してたこの子を案内してて……」
「でもこの子、イタリア語ペラペ、ンンッ!?」
手で彼女の口を塞いでから、私はギギギ……と音が鳴りそうなほどぎこちなく振り返り、ロマーノの顔を見る。目が合い、ロマーノの顔が赤くなっていく。
「は、はぁ?? じゃあ俺が言ってることわかってたのか……?」
友達が、まさか、信じられないという顔で私を見つめた。
「…………Mi dispiace tanto(本当にごめんなさい)!!!!」
その日、私は人生で一番綺麗なお辞儀をした。
ロマーノは先までにあったあれこれを思い出し絶句していたが、暫くするとようやく口を開いた。
「……ベッラ、悪いが俺は飲みに行ってくるぞ、ちょっと酒飲まないとやってられない気分だからなぁ……!!」
「ま、待って、奢る、お酒なら奢る!」
「うわっ、イタリア語ほんとに上手いじゃねえか……ベッラに奢らせられるわけないだろ!! もういいんだ、親友と良い旅を!旅じゃねえか!ちぎ………」
「ちょっと、待って!」
ロマーノが振り返り去っていこうとするのを追いかけ、彼の手首を掴んで止める。流石にこのままじゃ申し訳ないというジャパニーズ精神。
「お詫びとして、奢らせてほしいの」
「……いやいい、無理すんな」
「ジェラートもチケットも奢ってもらったし、ほら、ね!?私も飲むから!よし、それなら私のおすすめの酒場に行こう!そうしよう!!」
私が無理やり引っ張って先導すると、ロマーノは良いっつってんのに‥…と呆れている。親友も先ほど判明した所行にドン引きした顔である。
「……まぁ、ベッラがそういうなら仕方ねえか」
「ほんと!?やった、何飲む?なんでもいいよ、私が出すから!」
「それに、まぁナンパは成功した訳だよな?」
そう言うと、ロマーノはにやりと笑った。
「へ?」
「……君に伝えられないと思っていたこと、今なら沢山伝えられるな、例えば……」
私の瞳を見つめて、彼は甘い声でイタリア人の常套句を囁いた。
「その瞳の美しさは、星空を閉じ込めたようだとか……」
「だぁっ、もう、やってられるかこのやろー!!!!!」
「いいよいいよ!飲んじゃって!!!」
私のおすすめの美味しいワインをゴクゴク飲み、ロマーノはいい感じに酔っ払っていた。
「可愛い女に騙されたーー!!くそー!!こんなのは詐欺だぞちくしょー!!!」
「ばか、余計なことは言わないで警察来ちゃうから!!!」
親友はどんどん酔っ払ってくロマーノを見て完全に面白がっている。
「だいたい、なん○✕△&□……!」
「ねえ、なんて言ってるの?」
「わかんない」
「もういいんじゃない? 送ってあげなさいよ、私はダーリンと帰るから♡」
「へいへい、お会計ね」
「だめだ!俺が払うって言ってんだろ!」
ロマーノが頑固に主張する。
「言ってない! お詫びなんだからいいの。ロマーノ、私に奢られて」
「はんっ、だめに決まってんだろ。イタリアの男が、ベッラに奢られるわけにはいかねーんだよちくしょー」
私は呆れつつも、カバンから財布を取り出して、会計をしようとお店の人にレシートを持ってきてもらった。私が払おうとすると、ロマーノが横から手を出して妨害してくる。
「ちょ、酔っ払い! 邪魔だって離して」
「……ふっ、俺が払う」
ロマーノはドヤ顔で私の財布を押し返す。お店の人が困ってるって!
「離してよバカ!」
「はいはい、あ、これで」
結局本当に出されてしまい、私はロマの両肩を掴んで揺さぶった。
「ねぇ、あれだけ私が奢るって言ったのになんで払っちゃうわけ!?」
「ヒッ、怒りすぎだぞ、普通に怖ええですごめんなさいですちくしょー」
「怒ってないし!!怖くないし!!」
「お前、怒った顔も可愛いぞ。よし、帰るか!」
「悪いけど私にはそれ通用しないから!もう!」
ロマーノはなぜか呆れ顔である。
「はぁ……素直に受け取っときゃいいのに。お前思ったよりめんどくせー女だな」
「は、はぁ!?そんなことないし!!」
口論している間に親友の恋人が到着し、二人は熱烈なキスを見せつけると帰っていった。
「……でもまぁ、ごちそうさま」
「ん、素直でいいな。やっぱそっちの方が可愛いぞこのやろー」
酔っ払いは、んふふと笑いながら言った。心臓がドキ、と鳴ったが気にしないようにした。
「というか、日本人観光客狙うのやめなよ。いつか痛い目見るよ?」
「もう見たっつーの」
立ち上がった彼が少しふらついて、慌てて支える。
「送ってく……言っとくけどそういうのじゃないから!」
「いや、悪いからいい」
「もう、いいよ強がんなくて、ほら、私の肩に手をおいていいから」
ロマーノを立ち上がらせ、家がどのくらいの近さか聞く。
「あそこ、」
「うわちっか!都心っていうかなんというか……なんでそんないい家に住んでんの……?」
「ふふ、まぁな」
ドヤ顔をされても、足がフニャフニャなのであんまり決まらない。
「私はこのお店よく来るけど、ロマーノは?」
「あー、何回か来たことあったけどな。まだ出来たばっかだし、ランチばっかりきてたな」
「出来たばっか……?」
この飲み屋の入口で、創業12年という看板を見た気がしたけど気の所為? 私は内心首を傾げた。
「でもなかなかいい店だよな。店のやつも悪くねーし」
「ん? あ、うん……」
「んじゃ行くか。……おい、なんかあったか?」
「ううん、行こっか」
私たちは店を出た。
夜風が気持ちいい。星は綺麗で、海の匂いがする。この国に来てよかった。こういう、何気ない瞬間が凄く好きなのだ。
「なぁ、なんでここ来たんだよ」
「え? あそこには、ただちょっと散歩に……」
「ちげーよ。そうじゃなくて……ほら、日本って遠いだろ。寂しくねーのか? マンマとか、家族にも簡単に会えねえだろ」
「まぁ、それは、そうなんだけど。……でも」
「でも?」
日本でのことは、あまり思い出したくない。家族のことも。無理に笑って、私は言い切る。
「私、人生みーんな投げ捨てられるくらい、この国を愛してるから」
「……」
「え、なに? どうしたの?」
振り返ると、顔がトマトのように真っ赤になったロマーノがいた。
「えっ、なんでロマーノが赤くなるの?」
「いやっ、えっ!? あっ、その……」
「?」
ロマーノは私を見ると、ふは、と笑いをこぼした。
「まぁ一つ言えることがあるな」
風が吹いて、彼の前髪が少し揺れた。お酒で上気した顔は少し赤く、透き通った瞳がキラリと輝いて、私は目が吸い込まれるように、息を呑んだ。
「この国は、お前を歓迎してる!」
ロマーノは私を受け入れるように腕を広げて言った。
「……ふふ、なにそれ偉そー」
「なんだよ、悪いか」
「悪くない、ううん、嬉しい。ありがとう」
「ふ、間抜け面だな」
「……ロマーノもね?」
玄関前まで他愛もない話をしつつ、酔っぱらった彼と歩く。外装がどこか古いが、きっと何度も直され大切にされてきたのだろう。彼らしい家だと思った。
「……ねぇ、最後に言っておきたいんだけど」
「なんだよ」
「……ロマーノの目も、暖かい光を閉じ込めたみたいで、この夜の街みたいで綺麗だと思う」
「……はっ、? え、」
言い終わった直後に彼の頬にキスをして、ロマーノを家の目の前に残したまま、私は離れた。
「じゃあ、そういうことで! 今日はありがと、さよなら!」
振り返り、彼に手を振って別れる。彼は軽く笑って、手を優しく振り返した。
ロマーノが家に入った後、私はゆっくりと自分の家に帰るために歩き出した。夜風がまた心地いい。鼻歌を歌いながら、上機嫌で家に帰った。
で、翌日。なんとなくまたあの飲み屋のランチに行ったら、同じ事を考えていたのか、見知った顔に出会った。
「……ぁああああー!!」
「ふっ、また会ったなこのやろー」
ロマーノの顔を見て、昨日の夜、私が酔ってやらかした出来事が蘇る。顔がブワリと熱くなった。
「なんでそんな顔赤いんだ?……ああ、昨夜ベッラからしてきた、あの可愛いバーチョのことか」
「ばっ、口に出して言わなくてもいいでしょ!?」
「会えると思って来てくれたんじゃねーのかよ」
「いや、そんなわけないし!ここのランチが食べてみたくなっただけだし!」
「ふーん? ほんとか〜?」
ニヤニヤしながらロマーノが笑う。彼はテラス席の椅子を引くと、座るよう促した。
「お前も座れよ」
「うん……」
気恥ずかしさにロマーノの目が見られないでいると、メニュー表から目を離して、ロマーノはちらりと私を見遣った。
「……お前、なんでそんな照れてんだよ?」
「だって、また会えると思ってなかったから……」
俯いて目を逸らすと、ロマーノは優しく笑った。
「なんだよ。会いたいなら、また会えばいいだろ」
「どうやって?」
「んなもん、会いたいって考えてりゃ会える」
「……なにそれ、意味わかんない」
てっきり、連絡先を教えてくれるのかと思ったのに。関係を続けてもいいと積極的なのは、どうやら私だけのようだ。がっくりと項垂れた。
「嘘じゃない。俺が会いに行ってやるよ、試してみるか?」
「……そんなの」
そんなの、ありえないじゃん。超能力じゃあるまいし。ロマーノを見ると、目を合わせてきた。心の奥を見透かされそうなほど、目線が合う。心臓がバクバクと鳴る。彼はテーブルに来た店員に気がつくと、パスタとピッツァ、食後にティラミスを二個と、昼から白ワインを頼んだ。
「……ロマーノはさ、ここら辺が地元なの?」
「ん、まぁ……そうだな、俺んちだからな」
「ふぅん……ん、このおすすめのパスタ美味しい!」
「そりゃあ良かったぞ、このやろめ」
にやりと嬉しそうに笑顔をほころばせる彼を見て、やっぱり胸が高鳴った。黙っている時は綺麗で、表情を崩すとあどけなさが現れる……そんな顔をしていると思う。
「……ふふん、俺に見惚れてんのか」
「え、」
「顔に出てんだよお前」
「……そんなに出てるかな」
「まぁ俺の顔がいいのは当然だからな。見惚れるのも仕方ねえよな、な?」
なんとまぁドヤ顔で言ってくる。結構、すぐ調子に乗るタイプなのかな、この人。
「…………あー、まぁ」
「ふふんー、だろ?」
ウインクまで飛ばしてくる。それでもちょっと可愛いと思ってしまう。重症である。
「……日本もだけど、やっぱ黒い目って綺麗だよなー」
そう言うと、ロマーノは身を乗り出して、その彫刻のように整った顔を近づけてきた。
「ロマーノの目の方がよっぽど綺麗だと思うんだけど」
「そうか?……なぁ、日本語だと、俺の目の色はなんていうんだよ?」
「え?うーん……」
時折エメラルドのような緑色に見えるが、光の角度の問題なのか、不思議なことに、今はトパーズの黄色や橙色に近いように見える。覗き込んだり、横からみても、神秘的な色合いが美しい。睫毛長い。それこそ宝石みたいな目だと思っ……
……突然近づいてきたその唇に、軽く自分の唇が触れた。
「……へっ?」
「……お前、ぷぷっ、そんなんじゃイタリアの男にすぐ騙されんじゃねーの、っくく……」
「……な、な……!!」
「ばぁーか、油断しすぎだっつーの、ぷぷぷー」
「な、な、なぁぁあ……!!!」
まさかの不意打ちバーチョに、理解が追いつかず顔が熱くなる。
「だ、だまし……!」
「まー、先に騙されたのは俺だからな。昨日の仕返しだぞ♡」
「ラテン怖い……」
「ん? なんか言ったかー」
思わず日本語が漏れ出てしまった。
「ほーら、早く食わねえと冷めちまうぞ」
ロマーノは子供をあやすように私の頭をぽんぽんと叩く。腑に落ちないまま、パスタを一口巻いた。
店を後にして、昨日と同じ、海が見える場所をふらりと歩く。パスタもピッツァも美味しかった。
「美味しかったー……ご馳走様」
「まぁ、男が払うのは当然だからな、イタリアじゃ。知らなかったか〜? このやろー」
ニヤニヤとしながら、ロマーノはまたからかってくる。
「……なんか勘違いしてるみたいだけど……私も、ちょっとはここに住んでるよ?」
「そうなのか?」
「まぁ、3、4年ぐらいだけど……」
「ふぅん……まぁまぁ長えじゃねえか。ま、俺の魅力をわかるには、まだまだだな!」
「なんでロマーノの魅力を……」
「こっ……細かいことは気にすんな!」
「うん……?」
風が吹いて、海の方から潮の匂いがする。
「じゃあ、ご飯も食べたし……デートでも行くか?」
ロマーノはぱちりとウインクを一つ。
「この後は仕事あるから無理だよ」
「はぁ?」
「というか今日平日だし……ロマーノこそ大丈夫なの?」
「まぁ、俺は平気だけど……はぁあ、くっそ……なぁ、仕事なんて休んじまえよ。アン王女だって、お城から逃げ出しただろ?なぁ、principessa」
「あれは映画の中の話じゃん……」
「……仕方ねえか、はぁあ……労働なんて心底嫌いだバカヤロー……」
ロマーノは大きくため息をついた。
「じゃ、じゃあ……ごめん、奢ってもらったのに。昨日今日と……楽しかった、ありがとう」
「おう、じゃあな」
「じゃあ……」
こうして呆気なく、ロマーノとの2度目の奇跡的な出会いは終わりを告げた。
職場でPCを開く。私はアッ、と声を出した。
「連絡先、聞いておけばよかった……」
親友はジョッキをドカリと置いて、はぁ!?と声を上げる。
「あんたってほんと馬鹿ね。大馬鹿。そこまでいって、イケメンを取り逃すなんて……」
「連絡先聞くの忘れちゃって……後悔」
「馬鹿ね〜……店員さん!ビールもう一杯!」
「……はぁ、」
親友のジョッキから、どんどんお酒が消えていく。
「は〜、いい夜ね〜、月も出てて。あはは!」
「飲み過ぎだよ……」
肩を貸しながら、親友の家の道までの道を歩く。
「ダーリンだわ!」
ダーリンが彼女を抱きしめ、手を引く。どうやらここでお別れのようだ。可愛い彼女に、ひらひらと手を振った。一人でぼんやりと歩いていると、突然、鞄の中のスマホから、着信音がした。
「はー、なんでこう……」
仕事はうまく行ってる。まあ、恋人ができないのは仕方ない。でも、なによりも……ただの深夜の帰り道でさえも。親との繋がりからは、たとえ地球の裏にいようが逃れられない。この血も、あの家からも。
着信を切るか、つけるか。一つ、深呼吸をして、悩んで、勢いよく押した。
気分の酷く悪い朝。二日酔いならすぐに治るだろうがそうはいかない。
「……」
窓から南イタリアの景色を眺める。ここはもうイタリアなんだ。何度自分に言い聞かせても、どこか心がこっちに来れないでいるような気がする。閉まりの悪い扉を閉じて、鍵を閉める。外に出ると、朝日はまだ昇っていないようだった。
「……」
少し散歩して、バールが開いたら、そこでエスプレッソを頼もう。近くにある、海が見える高台に向かう。
朝焼けに燃えた空と、日に照らされた海、そして南イタリアの街。大丈夫、私は南イタリアにいる。大丈夫。……本当に、そうだろうか? 私は、あそこに囚われたまま……
……その寂しさと風の寒さに、体を揺すった。
「こんな時間にベッラ一人じゃ、危ねえぞ」
「え……?」
「あのなぁ、日本じゃいいかも知んねえけど、ここはそうじゃねえんだぞ」
「ろ、ロマーノ? なんでここに……」
「おい聞いてんのか?」
振り返ると、そこには間違いなく、あの特徴的な髪のくせ毛を揺らして、ムスッと腕を組みながら、朝日に照らされて眩しそうに目を細めるロマーノがいた。イタリアのマンマのように、私を見下ろしてふんすと息をならす。
「深夜に飲んだり朝っぱらから外出たり。お前危機感足りてえねんじゃねえの?」
「ロマーノ、」
「イタリアなんだぞ、ここは。わかってんのか……?」
その時、脳裏にあの輝く星空、その下の街の明かりと、眩しい笑顔が蘇る。
『この国は、お前を歓迎してる!』
そして今、朝日に照らされた南イタリアの街並みと、ロマーノの困ったような顔が、私に告げていた。
──ここは、南イタリアだと。
「……は? お、おい、泣いてんのかお前!?!?」
「……泣いてない」
「どー見ても泣いてんじゃねえか! ち、違えぞ!? ちょっと叱ったのは、お前を心配してっつーか……」
言われて一度目を閉じると、確かに熱いものが私の頬をつたう。完全に焦燥しきった様子のロマーノは、私の涙を優しく拭った。
「ああもう泣くなよちくしょー……どうしたらいいかわかんねえぞ……ちぎぃいぃ……」
「う、うん……」
「浮かねえ顔して……なんかあったのかよ」
優しく首を傾けて、ロマーノは私に問いかける。
「……ううん、私、やっぱり南イタリアが好きだなぁって」
「はぁ!?//」
「な、なんでそこでロマーノが照れるの」
「や、あの、それはだな……//」
「……?」
「つ、続けろよ」
「……うん」
私の話の続きを、ロマーノは真剣な目で聞こうとする。深呼吸して、言葉を必死に紡いだ。
「……なんでもないの。ただ、電話が来て、日本に戻れって、また言われちゃって」
「誰に?」
「お母さん」
「ふぅん……」
ロマーノは私の手を優しく握った。安心させるように、落ち着けるように。肩が震える私の手のひらを、両手で包んだ。
「……帰ろうか、悩んでるの」
涙が出そうになって、堪える。
「……日本に戻って、身を固めて、安心させてほしいだってさ。私の気持ちなんか、どうでもいいんだよ、昔からそう……」
ロマーノが、私を引き寄せ、ふわりと抱きしめる。
「私の、気持ちなんか、どうでも……」
私なんか、どうでもいい。
「……くそったれ」
「え?」
「……お前は、お前の気持ちはどうでもよくないって、わかってんだろ」
「……」
「……なら、ここにいろよ。ここが好きなんだろ」
自然と涙が溢れて、彼の胸に顔を押し付けた。誰かに抱きしめてもらうのも、涙を拭われるのも、酷く久しぶりだった。優しく背中を撫でて、ロマーノは私の涙を、受け止め続けた。
「……よ、よし!決めた。南イタリア式解消法、教えてやるぞ、コノヤロー!!」
「み、南イタリア式解消法……?」
「感謝しろよ、ほら行くぞ!」
強引に私の手を引いて、高台を降りていく。不思議と気持ちも、涙も落ち着いていた。
そのまま、ロマーノの家に連れて行かれた。自分としても危機感がなってないんじゃないかという気はするけれど、慰められ完全に気を抜いてしまった私は、ロマーノに手を繋がれたまま、家の玄関をくぐった。
「……」
「あ、あんま見んなちくしょー!!」
外から見た時はわからなかったけど……物が多い。というか……言葉を選ばずに言えば、部屋が汚い。
「……ろ、ロマーノ」
「ロマでいいぞ、このやろー」
「……ロマ。前に掃除したのは……」
「……あー、弟が4日前にして……ええと、」
「お、弟に掃除させてるの!?」
「な、なんでもねえ!!」
だが、リビングの物はごった返している一方で、ダイニングは綺麗にされていた。
「これが南イタリア式解消法?」
「やなことあったら、美味い飯食って、とっとと寝りゃいいんだ」
そう言って、出来立てのピッツァとパスタをテーブルに並べていく。出来栄えは、まるでどこかのリストランテのようだった。
「すごい、お店みたいだね……」
「ふふん、まぁな! 世界一美味いイタリアンって言ったら、やっぱ俺んちだろ!」
自信が凄い。棚を漁っているせいで顔は見えないが、ドヤ顔で言っていることは分かった。
「ほら、食うぞ」
フォークを渡され、まずは一口、トマトパスタを口に入れる。
「……ん!!お、美味しい……」
「だろ〜?」
「ほ、ほんとに世界一美味しいよ、これ……」
トマトの酸味、チーズの旨味、そしてお手本のようなアルデンテ……作り慣れているのだろうか。あの短時間で、こんなに美味しいパスタを作れるなんて。
「ふふ、ま、まぁーな……//」
本人はかなり照れている。さっき自分で言ってたのに。
「……それにしても、なんであんな時間に、あそこにいたの……?」
「あぁ!?こっちのセリフだちくしょー!女の子が一人でほっつき歩いて、危ないったらありゃしねえ!」
もぐもぐと自分が作ったパスタを口に入れながら、騒ぐように文句を言うロマーノ。それでも疑うような目を向けていると、ゴクンとパスタを飲んでから、ロマーノはにやりと笑った。
「言っただろ? お前が会いたいって考えてたら……会いに行ってやるって」
「あ……」
確かに、そんな事を言っていた。
「……ありがとう」
「別に大したことねえよ」
なんでもない顔で、ロマーノはパスタを食べる。私がどんなに感謝しているか。伝えるには難しいくらいだ。
「私、南イタリアのこういうところが好きなんだ……人が温かくて、優しくて、ご飯が美味しい」
「ふ、ふふ……そーかそーか」
「何そのニヤけ方……まぁ、治安悪いし、日本と違ってゴミも凄いし、すぐすられそうになるし……大変なことも多いけどね。慣れれば大丈夫だけど。あと皆、時間とか緩すぎるし……」
「お、おい!! わ……悪かった、けど、な……」
「……? なんでロマがそんな凹むの? はぁ、日本人だからって、すぐ狙われるのがなぁ……ナンパもスリも……」
「……ちぎぃ…」
ぶつぶつと、俺だってなんとかしようとはしてるけど……と言いながら泣きそうにパスタをくるくるしている。
「私が言いたかったのは……ロマ、本当にありがとう」
「……お、おう」
照れたように言うと、ロマはピッツァを大口で食べる。あらかた食べ終わってから、ロマはドルチェがあるぞ、と言った。
「……ティラミス」
「たまたま、俺が自分に作ったやつなんだからな。感謝しろよ」
「ふふ、ありがとう。元気出すね」
「……おう」
ティラミスは、今まで食べた中で一番美味しかった
食べ終わった皿を洗いながら、ロマと話す。
「お前、変なとこ真面目だよな。最初に会ったときも、奢る奢るって頑固だったし」
「そう?」
「日本人っぽいっつーか……やっぱ頑固だな、お前」
「なんかひどい……」
私はここが好きだけれど、性根はやはり、日本人として育ってきてしまっているのだ。頑固とは違うような気がするけど。
「……前々から思ってたんだけど」
そう言うと、後ろからシンクと私を挟むようにして、ロマは手をシンクの上に乗せた。
「なんでそんなに、ここが好きなんだ?お前」
耳元で囁かれた、ワントーン下げられた真剣な声に、思わず後ろを振り向きそうになる。ギリギリまで詰められた今の距離だと、振り返って彼の顔を見ることは叶わない。
「なんでって……」
「親から逃げてえなら、日本の中でも逃げようはあるだろ。わざわざここに住む理由はなんなんだよ、なんでそんなに、この国にこだわる。」
「ロマ……」
「俺は……この国の連中が大好きだ、誇りにも思ってる。美味い飯も、最高の景色も、じいちゃんが残してくれたものも、俺は……大切に思ってる。けどよ……」
自嘲的な物言いに、ただただ困惑する。その声は酷く不安げで、揺れていた。
「どっちかって言うと、北イタリアの方が、立派だろ。落ちこぼれの南イタリアなんかより。それに、他にもすげえ国なんて沢山あるじゃねえか。なんでそんなに、ここにこだわれるんだよ?」
「……そんなに、不思議なこと?」
「不器用な国だろ、こんな国……」
なぜかぶっきらぼうに言うと、ロマは私の腰を後ろから抱き寄せた。皿を洗う手を止めて、少し考えてみる。この国に初めて来た時のことを。
「私ね、この国が……ここが大好き」
「……だ、だからなんでだよ」
「私、初めて旅行でここに来たときは、当たり前だけど、イタリア語なんてまったく喋れなかった。ホテル間違えて、パスポートなくしかけて、散々だったけど……」
「だ、大丈夫かよ……」
思い出して苦笑いすると、ロマが伺うように私の顔を後ろから覗き込む。
「でも沢山の人が、優しく一生懸命助けてくれた。南イタリアでは特にそうだった」
「……」
「私は、結構……昔は頭硬くてさ。でも、この国の人に出会って、こんな風に、人生を楽しい気持ちで生きるのも、ありだなって、人生で初めて気づかされた」
お皿を洗いながら、記憶を辿っていく。怒られるたびに、きつく自分を責めていたことを。人生を、楽しいと思えていなかった頃のことを。
「ロマの言う、不器用な国っていうのは、よくわかんないけど……でも、私は不器用なところも含めて、この国に救われてる。だから……いくらロマがこの地方の人だからって……この国のことを悪く言うのはやめて欲しいっていうか……」
少し困ったように言うと、ぎゅぅっと、後ろから抱きしめる力が強くなる。
「簡単に分かったようなこと言うんじゃねー、ばぁか」
「なっ、でも、ほんとに……!」
「もうわかったって」
少しの沈黙が流れる。首元でくぐもったため息がつかれてくすぐったい。
「……ありがとな、」
ロマは震えた声でそう言うと、私の耳に、そっと後ろから口づけた。
皿洗いを終えて後ろを振り返ると、そのまま口づけられた。キスをするというより、唇を奪われたといっていい。腕に挟まれ追い詰められているので、逃げられない。そもそも、逃げる気もしないほど、魂を吸い取られるみたいに、キスで力が抜けていった。
「ん、……」
「……〇〇」
腰に手を回されながら、熱く口を寄せて求めあう。私はそっと、ロマの胸を押した。
「ごめん、午後も仕事が……せめて休むって連絡しないと」
棚に置かれた時計は、10時を指していた。
ロマの舌打ちに苦笑いをしてスマホを開くと、違和感に気が付く。おかしなことに、母からの不在着信が16件もあった。
手早く職場に欠勤連絡をして、母からのメールを確認する。
そこにあったのは、婚姻話がまとまったという、あまりにも一方的な連絡だった。結婚式は一か月後。至急帰るようにと書いてある。思わず、え、と声が出た。
「ん?どうかしたのか?」
「な、なんでもない……」
「……?」
固まった私を不信に思ったのか、ロマは私からスマホを取り上げた。
「あーくっそ、読めねえ……おい、なんて書いてあんだよ」
私の両肩を掴む手は、どこか先の言葉に怯えている。沈黙の圧に耐えかねて、小さく呟いた。
「日本で結婚することになった」
「は?」
「帰らなきゃいけない、一か月以内に……」
両肩を掴む手が、痛いくらいに強められる。
「おい、まさかそれで帰るなんて言わねえよな……?」
母親の言うことに従う、期待通りに生きる、そうやって、日本では生きていた。イタリアに、来るまでは。迷う私を見透かしてか、ロマは少し困惑したように私を見つめ、俯く。
「……ふざけんな!!」
大きく叫び、ロマはぎゅっと私を抱きしめた。
「……日本になんか、くれてやれるわけねえだろ、ばーか」
震えた声で、怯えるように私を抱きしめる手。
「行かないって言えよ。南イタリアが好きだって、言ってくれただろ……?」
何も言い返せない私を、ロマはただ、黙って強く抱きしめ続けた。
結局、午後の間はずっと、ロマに抱きしめられたまま、ベッドの上でゴロゴロと二人で寝ていた。
「……ロマ、そろそろ起きない?」
「ん……うるせえぞこのやろー……」
ぴったりとくっついたまま、ロマの寝息を聞く。
たった、あと一ヶ月。そう思うと、胸が締め付けられる。せっかく、ロマーノとこうして、近くにいられるのに。こんなに、幸せなのに。
「……ロマ、大好き」
そう言って抱きしめると、ロマは少し躊躇うように腕を彷徨わせてから、私を抱きしめ返した。
「……ふふ、ロマ、寝癖やばいよ」
「……」
「聞いてる? 買い出し行こ、それか飲み行こ」
揺さぶるが、ロマの目は閉じたままだ。私はロマの上に押し倒すような姿勢で被さると、口に軽くキスをして脇腹をくすぐった。
「……ん、ん……!?」
「あ、起きた」
「ち、ちぎぃぃいい!?!? な、にすんだよこの変態!!」
「え? 私は変態じゃないし」
こちょこちょ……
「や、やめろばか、ひっ、ヒィイッ、ははっ、あぁ゛あ゛」
「起きて、ロマ〜」
「起きる!起きるっつーの!」
……くすぐりをやめると、ロマは息を整え、ピタリと動かなくなる。って、また目瞑ってるし。
「ひゃぁっ、ちょ、わかった!!わかったって!!ヒッ、やめてくださいちくしょおぉお……」
イタリアのスーパーは、日本と少し違う。カートはコインを入れないと使えないし、そもそも地面に置いたまま、持ち手をひっぱって使う。野菜は量り売りだし、豊富な種類のチーズはチーズ売り場として一角を構えている。
玉ねぎ1キログラムの値段を睨みつけながら、何か考え事をしているロマ。
「またロマのパスタ食べれるの楽しみだな〜」
「……」
「……ロマ? 聞いてる?」
「いや、なんでもねえ」
量り終わった野菜を雑にかごに入れて、ロマは歩き出す。
「ロマはドルチェだと何が好き?」
「ん、カッサータ」
「あ、美味しいよね。私にも作ってよ」
「とんだ甘えんぼ姫だな……」
そう言うと、ロマはリコッタチーズをかごに投げ込んだ。
「食費は後でちゃんと出すから」
「あーいい、いらねえ」
「無理だよ、絶対払う」
「いらねえつってんだろバーカ」
「バカじゃないし!!」
めんどくさそうに言いながらレジで会計をするロマ。
「じゃ、じゃあちょっとお高めのワイン買っとく!!」
私はそう言い残して、ワイン売り場に小走りで走った。
「ほ、ほんとにいいやつじゃねえか……!」
「でしょ?」
ダイニングに置いた袋からワインのラベルを見たロマは、目を輝かせて振り返った。
「ふふ、これで料理頑張って、なんか手伝うことあったら言ってね」
「あ、まぁ、そうだな……な、なぁ」
「ん?」
ソファに座ると、ロマが何かを言いづらそうにしている。
「どうしたの?」
「い、言い忘れてたっつーか、ちぎ……」
その瞬間、ガチャリと玄関から音が聞こえる。
「にいちゃんただいまぁ〜〜〜〜〜〜!」
「うぉっ!? 今かよ!?」
ドタドタとロマは包丁を持ったまま玄関へと走っていく。今聞こえた至極明るい声は一体……
「うわっ、兄ちゃん料理中に包丁持ったまんまお出迎えとかちょっと怖いであります」
「お前今すぐ出てけ、3秒以内にでてけ!!」
「ひっ、酷すぎるよ兄ちゃん!って、今日も世界会議サボったでしょ!朝からいなくなっちゃうなんて、そんなに……」
「……あっ、ばかっ、出てくんなっ」
「ヴェ……ヴェ……!?!?」
玄関先を覗くと、そのオレンジっぽい髪色の、ロマにそっくりな見た目の人は、手からドサッと仕事用らしき鞄を落とした。
「ヴェェエエエエエエエエエ!?」
「あーもううるっせぇ!!黙れこのバカ弟!!」
「だっ……だって兄ちゃん、今、ベッラがいたよ? ナンパ成功したの? 俺が仕事してる間に……!? いろいろひどすぎるよぉ……泣」
「な、なんつーか、これにはわけが……」
「あっ、CiaoCiao!また出てきてくれたね!日本んちの子かな〜?ベッラ!ねえねえ今度は俺とかどうかな〜」
「ふざけんなこのくされヴェネチアーノ!!」
ロマのげんこつが炸裂し、べそべそ泣きながらその弟さんはとりあえず家に入った。
「俺、ヴェネチアーノって言います。ヴェ……」
「は、はじめまして……」
「君は?お名前なんて言うの?」
「〇〇……」
「うわぁ、可愛い名前だねぇ!というか、イタリア語ペラペラだ!嬉しいな〜」
「チッ……」
盛大な舌打ちが横から聞こえる。
「こっちに住んでるんです、4年くらい」
「へぇ~、ちょっと兄ちゃん寄りの訛りだね、可愛い〜!」
「あ、ありがとう……」
直球な物言いに少し照れてしまう。花が開いたみたいな笑顔。似ているとは言え、表情は全くロマと違っていた。
「ふんっ……お前もなにデレデレしてんだよふざけんなよこのやろおぉお……」
とりあえず怖いので、包丁を置いてほしい。
「なんでこうなんだよ……」
「俺、おじゃまかなぁ……」
「それを言うなら私がお邪魔では……?」
3人でパスタとピッツァ、そしてちょっとお高めのワインを囲んでいる。気まずい空気を断ち切ったのは、ヴェネチアーノさんだった。
「……えっと、兄ちゃんのどこが好き?」
「はぁ!?おま、何聞いてんだよこのバカ弟!」
「恥ずかしいけど……うーん……」
「おっ…お前も真面目に答えてんじゃねえぞ!」
「うーん………声?」
「声かよ!?!?」
「わかるー! 兄ちゃん男前だもんね〜、俺、ちょっとだけ声真似できるよ?」
結構似てるので凄い。一瞬分からないかもしれない。というか、ほぼ同じ声……?
「すごーい!」
「とっとと食え!!」
手を叩いて褒めていると、ロマがピッツァを弟の口に突っ込んだ。
夕食も食べ終わり、ロマが皿洗いをしている間、ヴェネチアーノさんと喋る。
「兄ちゃん、かっこいいでしょー?」
「ふふ」
「俺も、兄ちゃんのこと大好きなんだ〜、君も好き?」
「……あー、んー、えっと」
「あは、照れちゃった〜」
「あ、あんまり日本だと直接的なことは言わないので……」
「うん! 知ってる〜! 俺の知り合いもそうなんだ! 変わってんだけど、面白くて〜」
「へ〜……」
「日本もドイツも、ほんとーに面白いやつなんだ! この前一緒に出かけたときもね?ドイツが……」
「ドイツ」
話の逸れ方が急なのはこの国の人によくあることだが、主語が若干変な気がする。
「あっ、いっけね、そういや兄ちゃんはこのこと言ってないかもなんだった〜……」
「……?」
「ううん、なんでもない! それでね、ドイツ人のやつが……」
そのドイツ人の方が話の6割登場する。
「おいお前……まーた芋野郎の話してんなぁ?っコラァ!」
「ヴェエ……痛いよ兄ちゃんつねんないでぇ〜」
「すぐそーやってドイツがドイツがって……あいつのどこがいいんだよこのやろー!!」
「ヴェ〜……」
苦笑しながら時計を見ると、思っていたより遅くなっていたことに気がつく。
「……ごめん、ロマ……私、そろそろ帰るね?」
「ヴェ?!」「ちぎぃっ!?」
「泊まってけばいいよ〜、ね、兄ちゃん」
「そーだぞ、……別に。飯も風呂もいくらでも、なんなら毎日泊まっても……」
「な、何言ってるのロマは……」
「そーだ、ワイン! まだ残ってるから、飲んでけよ」
「明日は早い日なんだよね……」
ロマもヴェネチアーノさんも、しゅんとしょぼくれていた。心なしかアホ毛も縮んでいるように見える。
「じゃあ、仕方ねえな……ちぎぃ……」
「俺が送ってくよ〜!」
「だめに決まってんだろバカ!……俺が送るからなっ、」
「ヴェへへ……兄ちゃんやきもちだ!かわい~」
「うっせばーかっ」
荷物を持たせると、ロマは私の手を引く。
「じゃあね、〇〇ちゃん!」
「うん、また!」
夜の寒さに体を震わせると、ふわりと肩に温かいものが掛かった。
「これでも着とけ」
「あ……ありがとう……」
「ん」
ロマの上着を握りしめる。ちらりと私を盗み見てから、また前を歩いていく。一瞬振り返ったロマの顔は、少し赤かった。
「なぁ、お前……」
「なに……?」
「好きだ」
「えっ……?」
「まだ言ってなかっただろ」
すぐにまた前を向いて、淡々と言う。その割に耳が真っ赤で、つい笑ってしまう。
「……ふふ、それぐらいわかる」
「日本って、告白文化なんだろ、確か。てっきり、わかってねーんじゃねえかって思って……バカ弟と喋ってばっかだったし……」
拗ねるように言ってロマが俯く。
「俺の片思い、じゃ、ねーよな……?」
「うん、ふふ、」
「ああもう、どっちだよ〜!」
「どっちかなぁ〜……」
ロマが泣きそうな顔でこっちを見る。
「お前なぁ……! 俺を弄びやがって……とんでもねえベッラだぞこのやろー……」
「大丈夫だって、ちゃんと好きだから」
「ほんとかぁ……?」
そう言うと、急に正面から強く抱きしめられる。
「ちょ、ちょっとロマ……苦しいって」
「……なぁ、お前」
「ん〜?」
「……やっぱり、なんでもねえ」
「え? 気になるじゃん」
抱きしめられたまま、ロマのほっぺを緩く掴む。
「やめろバカヤロー!」
「ふふ、で、なになに?」
ロマは困ったような顔をして、目を逸らした。
「お前……さ……」
「んー?」
「不老不死って、どう思う」
「え?」
寒さに鼻を赤くしたロマが、真剣な眼差しで見つめてくる。
「……急に漫画の話? そういう話するの好きなの?」
「ちげぇよバーカ! 真面目に答えろ!!」
不老不死って……そういう話以外に、どういう話があるというのか……仕方ないので、頭を捻って想像してみる。
「うーん、面白そうではあるけど……私は嫌かな」
「理由は?」
「ずっと生きなきゃいけないって、大変じゃん。他の人みんな死んじゃうわけだし……」
ロマは抱きしめる手を緩めないまま、低い声で言った。ロマの肩越しに、鳥が地面から飛んでいくのが見えた。
「……正確に言えば、周りと違うテンポで、時間が進んでくんだよ。知り合ったやつはみんな先に死んでく。なんなら、気づいた時には死んでる」
「……知ったような口ぶりを……厨二病?」
「なっ!黙れバカ!いいから聞け!……好きなやつができても、そいつがどーせ死ぬってわかってんだよ。でも目を離したくない。目を離したら、気がついた時には、もう会えねえかもしれねえ」
ロマは私を見つめたまま言った。
「……そんなに必死なの?」
「昔はそうでもなかった、どーせ辛くなるってわかってたし。適当にあしらって、泣く泣くベッラを追い払ったりとかな」
「ふぅん……?」
「でも、いい迷惑かもな。普通の人間と結婚して、普通に幸せに過ごしたほうが、いいのかもしんねえ。もしかしたら、そのうち後悔させんのかもしんねえ。俺だって、どうしても諦めたくないと思ったのは初めてだし……よくわかんねえ」
「……うーん、?」
「だから、1ヶ月以内に考えて決めろ。俺か、それ以外の普通の男か」
「ロマを選んだらどうなるの?」
「……俺がお前を一生幸せにすんだよ」
「なっ……」
まさかのプロポーズに言葉も出てこない。
「わかったら、ちゃんと考えとけよこのやろー」
「う、うん‥…」
家まで見送られた私は、頭がぐるぐると混乱したまま眠りについた。