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一章

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さん、ちょっといいですか?」

「わっ!」

ひとまず授業…と思い席につくと黒い髪をリボンでひとくくりにまとめた丸メガネの先生?がおどおどとした様子で私の近くにやってきた。

教室にこんな人いたかと驚くと、びっくりさせてすみません…でも最初から教壇に立っていたんですよとしくしく泣かれてしまった。

「いえ、こちらこそ気が付かなくてすみません…あの、先生ですか?」

「はい。B組の副担任です…。」

あーーーー!!!副担任の先生か!!!本当に存在感が薄い…

「じゃあこれからお世話になるんですね、よろしくおねがいします」

申し訳なく思ってにこりと挨拶すると副担任の先生は驚いたような顔を見せ、心の底から嬉しそうに「はい。」と言って笑う。まともに挨拶をしてもらえるなんて久しぶりですと言ってにこにこする先生のバックにお花が飛んでいるように見えてついこちらもニコニコしてしまう。

二人でニコニコ笑い合っていると呆れたように蛍ちゃんから何か用があったんじゃないんですかとツッコみが入った。

「あっそうでした!実は今日の授業のことで用事がありまして」

「授業、ですか?」

さんはまだ教科書とか文房具だとか必要なものを持っていないでしょう?それで、今日は一日学園を見て回ったらどうかと鳴海先生から伝言がありまして」

「それは…でも。私はまだ学園に来たばかりできっと迷ってしまいますし…」

「はい。ですからパートナーをつけるとおっしゃっていました」

「パートナー?」

するとそこまで来て副担任の先生は顔を曇らせまたおどおどしはじめた。

「そうです、きょう一日あなたに学園内を案内するパートナーなんですが…その…」

ついに先生はうつむいてしまった。

いつの間にか教室内も静かになっていてみんながこちらに注目している。蛍ちゃん我関せずといった風だけど聞き耳を立ててるし。

「あの、いったい誰なんですか?クラス委員さんとか…?」

「私もそういったのですが、鳴海先生が…どうせ今日もサボるんだろうからと、日向君を……」

!!!!!???

教室中がひやりと固まった後ざわざわと一気に騒がしくなる。

ななななんですってぇぇ!!?なんでよりによって日向棗!?

ぽかりと口を開けて固まっていると後ろからガンッと机を蹴った鈍い音がした。

「…ふざけんじゃねぇ………っ」

「そっそうよ!なんで棗君がそんなこと!」

「あ、あのっ先生僕が代わりに行くんじゃだめなんですか!?」

パーマちゃんが納得いかないと怒り、まだしゃべったことないけど委員長があわててフォローを入れてくれる。できるなら私だって委員長にお願いしたい!

酷く不機嫌そうな顔で棗君は先生を睨み付けていた。

「ひぃ!ごごごごめんなさいっでも『ちゃーんとパートナーとしての役割を果たさなかったらペナルティだぞ♥』と鳴海先生が!」

「…………っち」

イライラを隠さないまま舌打ちをひとつした後

バァン!!

スタスタと歩いて行って教室のドアを蹴りあける。

「…おい、そこの記憶喪失」

「はっはい!」

「さっさとこい。燃やすぞ」

「あっ!棗!オレも一緒に行くよ」

それだけ言って教室を出て行ってしまう彼を流架くんが追いかけて行って、それを見て私もは慌てて駆けだした。

(あぁ…さっそく目立たないってルール守れそうにないな…)

騒がしいままのB組を後にしみじみとそう思った。

ーーー
「待ってよ、棗君!」

さっさと歩いて行ってしまう彼を一生懸命追いかける。
やっと追い付いて隣に立つと軽く睨み付けられた。私こんな威圧感のある小学生いままで見たことないよ。チッと軽く舌打ちをされ、しばらくは気まずい空気のままどこへ向かうのかもわからずただ歩いていたが、気がつくと息が整っていることに気付いた。歩調を緩めてくれていたのか。
気難し屋で、優しい。

「…ありがとね」

そうか、そうだった。こんな初対面でも見えた不器用な優しさに思わず笑ってしまうと棗くんと流架くんは意外な顔をしてこちらを見た。礼を言われると思っていなかったらしい。

「…別に。ペナルティ食らうのはごめんだからな」

まともに目があってしまうと無視もできなかったのだろう。
案内する気なんてないぞと顔をしてそんなことを言う彼に、置いて行ってもいいのにとやはり笑顔が浮かんでしまう。
ふん、と前を向いてポケットに手を突っ込んだまま歩く棗はもうこちらを振り向かなかったが、歩調は変わらずゆっくりだった。

「お前、変な奴だな」

「え?」

「別に俺も棗も親切で一緒にいてやってるわけじゃないのに、礼を言うなんて…」

「なんで?だっていくら鳴海先生にペナルティがあるって言われたってとりあえず外に出て私を置いて行ったっていいのに、こうやって一緒にいてくれる。うまく言えないんだけど、優しいなって思ったの。」

「…やっぱり、変な奴……」

ぽそりとうつむいた流架君はそういったが少しだけ、嬉しそうだったのは気のせいだろうか。
棗君は能天気な奴。とせっかく緩めてくれた足を速める。

「あ!ゆっくり歩いてくれるんじゃなかったの…!?」

「バーーーカ」

「ちょ、待てって棗!」

――
そんなこんなで最終的に全力疾走することになり。
どこかの森の中までたどり着いてぜぇぜぇと息を切らしていると遅ぇと偉そうに棗君と哀れむような顔の流架君が少し先から戻ってくる。

「なんで、私たち…っ走ってた、の…っ」

「ひととおり通ってやったろうが」

涼しい顔で腕を組む棗を、どこを通ったのか見当もつかないわたしは整わない息を吐き出しながら見上げた。

「…え?」

「気づいてなかったのか?」

「な、何に?追いかけるのに一生懸命だったから」

面倒くさそうにそーかよと言ってごろりと木の根もとに寝転ぶ棗君を見やって、流架君が説明してくれる。

「さっきまで中等部とか初等部寮を通ってきたんだ。多分、棗なりの案内なんじゃないかな」

「分かるかぁ!!」

走るのに一生懸命だったうえに見たこともない建物の前通って説明もなく中等部とか寮とか分かるわけない!中盤からは舗装された道が走りやすいとか土の上になって足が縺れるとか、草が道端に見えてどこを走っているのだろうとか道の記憶しかない。

「まぁそうかもしれないけど」

「もう、疲れたよ~…」

優しいとか前言撤回と思いながら、こちらもまた涼しげな顔でのたまいながら棗の近くに腰を下ろす流架を見て自分もへとへとと草の上に座り込んだ。そういえばここはどこなのと聞くと流架君が「北の森」とちょっと楽しそうに教えてくれた。

「北の森?」

あのベアとかジャイアントピヨとかがいるところかぁと思い出していると、ここは動物たちがたくさんいるんだと嬉しそうな顔をした。
寄ってきた小鳥を優しい目で見つめる姿をみると年相応というか、クールなイメージは全くない。こんなに小さいんだ、と目の前で生きているキャラクターをみて心がきゅっと切なくなった。二人ともこんなに小さい。小学生なんだと改めて感じる。こんな子たちが、こんなに優しい子たちがこれから乗り越えなければならない未来を思うと苦しくなる。

それでも、私はどうしてあげることもできない。
主要人物に関わらないとか、事件に関わらない、目立たないなんて思ってたけど実際私が関わったところで物語は大した影響は受けないだろうと思う。
だって私にアリスなんてないし、人の心なんて簡単に動かせるものじゃない。事件だってあんな大きなこと私は、ただの人間は助けにだってならない。途中ではじかれるのがオチだろう。あのルールは物語を守るためなんかじゃない、自分の罪悪感を消すためだ。わかってた。勝手に特別な気になっていただけだ。
それでも、未来に起こることを教えるわけにはいかない。
だから、余計につらい。

「動物、好きなの?」

気持を押し込めて、できるだけ自然に笑おうとした。

「うん。…好き」

照れたように返す流架君にそっかぁ、と呟いてごろりと寝転んだ。木々の合間から見える空が青い。

目をつぶって黙っていると沈黙が流れる。
でもそれは決して居心地の悪いものじゃなかった。

ーーー
「お前、アリスが分からないんだってな」

ふと、棗君が話しかけてきた。

日が高くなっている。今はお昼くらいだろうか。

「…うん。正直、アリスがなんなの分からないというより、能力を持っているのかも分からないんだ」

「アリスじゃないかもしれないってことか?」

流架君が驚いたような声を上げる。

「うん。私自身はアリスを持ってないと思ってる。私、気が付いたら学園の森の中にいたの。なんの前触れもなく現れたみたいで、それで先生たちはアリスかもって」

「そうだったのか…」

「……なら」

「へ?」

「…なら、アリスなんて無いといいな」

小さく、あまりにも小さく棗君がそう呟くから、私はつい…泣きそうになってしまった。

「…うん…、そうだね。」

本当は、アリスがない方が私は困ってしまう。でも、そんなこと、言えなかった。
だからもう一度、ぽそりとそうだねと繰り返した。

その日、私たちは夕方まで北の森で過ごした。
彼らと少しだけ仲良くなれたことが気のせいでないといいと思う。肌寒くなってきた空気の中を、誰かが言った帰ろうという言葉に三人で今度こそゆっくり、学園へと戻った。
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