一章
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「おっはよー☆よくねむれたかなぁ?」
バァンと勢い良く開け放たれたドアの音と共に響く底抜けに明るい鳴海先生の声で目が覚めた。
「お、はようございま…す。」
まだぼんやりとする目を擦り、ここへきてからようやく見慣れてきた日に透けてキラキラと光る見事な金髪を眺める。寝て起きたら自分の部屋にいて、昨日のことはすべて夢だった。なんてことにはならなかったらしい。はぁぁと重たい溜息がでる。岬先生はすでに起きて出かけてしまったのか部屋には私一人しかいない。
「こらこら、朝からため息なんて幸せが逃げてちゃうぞ~。さて、そんなことより。実は今日は君にプレゼントがありまーす」
きょとんとする私の目の前で、ジャーン!!と誇らしげに掲げられたそれは、大きな襟に細身の赤いリボンのついた黒の上着と赤と黒のチェックがかわいらしいスカート。
「アリス学園初等部へ仮入学おめでとう!これは君の制服だよ♥」
そう言って鳴海先生はまだベットに座っている私に制服を手渡しながら、「これからよろしくね」と、今度は茶化したような声音は潜めて優しく笑いかけてくれた。
そっと手渡された制服をなでる。これが、アリス学園の制服。
漫画で見ていた時からかわいいなとずっと思っていた。憧れだった制服は、実物はもっとずっと素敵で、純粋な喜びに笑顔が浮んだ。
そんな様子を意外にも静かに見守っていた鳴海もまた微笑み、喜んでもらえたようでよかったと頭を撫でられる。
ぐりぐりと遠慮なく撫でくりまわされながら、これからのことを考えた。
制服のおかげか、前向きな気持ちが湧いてくる。ここは憧れだったあの学園アリスの世界。あまり勝手なことはできないけれど、楽しまなきゃね!二回目の小学生の生活、初等部らしく振舞えるかは不安だけど。
とりあえず今日これからの生活で守っていこうと思ういくつかのルールを自分なりに決めた。
1.元いた世界の自分のことは話さない。記憶喪失だと押し切る。
2.主要人物およびこれから起こるであろう事件その他になるべく接触しないように努力する。
3.目立たない。
これを守りさえすればきっと私がいつか帰る時にもお話は壊れない…はず。
それに私は学園生活をエンジョイしたい!そのためにはひっそりと過ごすのが一番だろう。
「さ、着てごらん」
ニコニコと楽しそうな笑顔にうながされて真新しい制服に袖を通す。
サイズはぴったり。
「うん、思った通りだ。よく似合っているよ」
鳴海先生が目の前に持ってきてくれた姿見には、かわいらしい制服に身を包んだ自分がいた。
体は幼くなってしまっているけど思った以上に違和感のない姿にほっとした。
「えへ、えへへ…。嬉しいです、ありがとうございます」
鳴海先生のお世辞に素直に喜んで笑えば、彼はふわりと私を抱き上げた。
「やっと笑ってくれたね!かーわいーぞぉ~」
くるくる回りながら安心したように、嬉しそうに笑ってくれるから、私もまたつられて笑ってしまった。
ーーー
楽しいお着替えが終わった後、初等部の校舎へ車で移動。広い、広すぎるぞアリス学園。
教員棟から校舎への道は長く、街いくつ分なんだろうかと思いながら流れる景色を眺める。
ようやく建物が見えてきたところで車を降り、鳴海先生に教室までの道を案内されながら目的の場所までやってきた。
扉の上の小さな看板に書かれた文字は
【B組】
今の年齢的にここ以外にないのでまぁそうですよね。しっかりバッチリ初等部B組へ入ることになった私は、さっそく自分自身で決めたルールを守れるのか、主要人物に関わらないように努力できるだろうかと不安でいっぱいになった。
鳴海先生にろうかで待っているよう言われたので待機。
教室の中から明るい声が響いてきた。
どうか変な紹介だけはしないでくださいとうんうん唸りながら声を聞く。
「はーいみなさん、今日はこのクラスに新しいお友達が来ま~す。なんとその子は、記憶喪失です!」
「「記憶喪失!?」」
ザワリと教室中がざわめく。
聞こえてきたどストレートな紹介に、その通りではあるがそれではあまりに色物転校生ではないかと一気に入りづらくなってしまった空気を感じて動悸が激しくなる。
「そうです、自分が住んでいた場所も、どうしてここに来たのかも、自分のアリスが何なのかも、ぜーーんぶ、わかりません♥でもだからって特別扱いしたりせずに仲良くしてあげてください。それじゃあ転入生ちゃーん、入っておいでー」
入れるかぁぁーーーーー!!!心の中で目いっぱいツッコんでドアの前に立ち尽くす。
顔が熱い。足が震える。
「あれぇ?転入生ちゃーん?…照れちゃってるのかな。おーい、入っておいでー。ひょっとして僕のことも忘れちゃったのかな~?」
おーいとすっとぼけた声で私をよぶ鳴海先生に、これ以上躊躇っても余計ひどくなる予感しかしないと慌てて扉へ手をかけた。
「ふ、ふぁい!」
うわぁ声裏返っちゃった…!
意を決して教室に踏み込んでいくとビシバシとみんなの視線が突き刺さって痛い。鳴海先生のばかっ。
「緊張しているね、ロボットみたいになってるよ」
けらけらとからかってくる先生が憎い。そう思いながらも緊張で固まった表情のまま教壇の上に立つ。
「はい。この子が転入生の女の子です。自己紹介、できるかな?」
背中に手を添えられて、ポンと叩かれた。
「あ、えと。はじめまして…柊かんなです!よろしくお願いします」
顔はますます火照っているのだろう、頭がくらくらする。
ぺこりと頭を下げたままでいるとざわざわと騒がしいままの教室から女の子の鋭い声が響いた。
顔を上げてみればパーマ頭の女の子が私のほうを睨み付けている。
「先生、アリスがわからないってどういうことなんですか!?」
この子は!!!犬猫体質のツンデレスミレちゃんだーーーーーーー!!!!!!
ひゃあひゃあと心で騒ぎつつ、つい笑顔になってしまいそうな頬を引きつらせる。
不自然に表情を作ったせいでものすごく感じの悪い顔をしてしまった気がするがしょうがない。急にニコニコする方が怖いもんね!!
「うーん…どういうことって言われてもねぇ。わかりやすく言うと彼女はアリス能力者、予定って感じかな。もしくは(仮)ともいうね」
「「アリス能力者、予定?」」
「彼女はまだアリスがわからない。ただ能力を持っている可能性が極めて高い。それをふまえての仮入学ということでこのクラスの生徒になりました。だから今日からしばらくの間彼女には自分のアリスを見つけるための努力をしてもらわなければなりません。みんなも協力してあげてね♥では以上かいさ~ん!」
スミレちゃんを皮切りに質問責めになりそうな空気を感じたのかさっさと話を切り上げて教室からあっという間に出て行ってしまった。鳴海先生…逃げたな。
去り際に今日は空いてる席に座ってねとだけ言われておいて行かれてしまった私は教壇の前でおろおろとたたずんでいた。
ーーー
ざわざわと教室は騒がしいままだ。
ざっと見回したB組はまさに混沌。描いた絵が宙を漂い、人は浮き、ごちゃごちゃと謎のおもちゃや機械がそこら中に散らばり、実験器具を持ち込んでいる子の手元の試験管からはあざやかなピンクの煙が朦々と立ち込めていたりする。まさに自由そのもの。良い意味ではなく。
そんな個人プレイヤーを集めた教室中の特殊な空気の中、謎の一体感を持ってクラスメイト達の視線を一身に浴びている私はとりあえず、と空いている席をさがした。
まず目についたのは窓際の一番後ろ。あそこは絶対にごめんだ。
だってあそこには乃木流架と日向棗が座っている。本来であれば佐倉蜜柑が座ることになる席だから。しかし、今この場にいないことを考えると彼女はまだ入学していないということだろうか。
それにしても空いている席が全然見当たらない。他にあるとすればうしろから二番目。彼らの前の席くらいだ。困ったなぁ…。
「できるならあの後ろの方の席だけは座りたくないんだよなぁ~」
そうそう。あの辺には…って
「え、ええええぇぇ!!」
「はじめまして、僕のことは心読み君ってよんでねぇ」
「なっ…あ……」
ショック。失念していた。
さすがに心読み君だけは、というか心の中でまで嘘はつけない。
「僕のこと知ってるのー?嘘ってな「はっはじめまして心読み君、これから仲良くしてね!」」
「ねぇ嘘って「ところで空いてる席って他にないかなぁ!!」」
「……。今のところあそこだけだよー」
マジか…。
心読み君はしゃべらせてくれない…としょんぼりとした顔をみせた。
うっかわいい…。ごめんねごめんね。君が悪いわけじゃないんだけどどうしても私のことが知られてしまうわけにはいかないの!罪悪感で胸が締め付けられるのをこらえていると、その心を読んだのか「そっかぁ、いいよ。秘密にしておいてあげる。フフ」となぜか嬉しそうに去って行った。
となりのキツネ目くんに「あのねー僕かわいいんだってぇ~」と報告している姿が目に映る。
嬉しそうだったのはそれか。
「ちょっと!柊さん、あなたさっきから聞いてれば棗君達の席に座りたくないってどういうことなの!?」
パーマちゃんが信じられないといった怒りの声をあげる。
「まー堂々とあそこの席を選んでいたらそれはそれで許せないけど、失礼じゃない!」
「ご、ごめん」
「私じゃなくて棗君とルカ君にあやまりなさいよ」
え!私謝らなきゃいけないような悪いことしてないよね!?びっくりして彼女を見るが怒ったままのスミレちゃんはフンと腕を組んでこちらを睨めつけている。えぇ…小学生怖い…。
「自分も小学生なのにねー」
ぼそっとつぶやかれる心読み君の声にハッとする。
そうだったいけないいけない。
目線を上げて一番後ろの席を見ると名前の上がった彼らもじっとこちらの対応をうかがっているようだった。
「ごめんなさい、二人の隣が嫌だったんじゃなくて、その…一番後ろの窓際って…」
頭をフル回転させて言い訳を考える。どうにかしてこの場を平和的にまとめなくては。
あそこに座らずにすんでパーマちゃん達の機嫌も損ねない理由、理由、理由…。
「…あっ。…ね、眠くなっちゃうから!」
教室中がしんとする。
あれ?
「そっ、そうね…まぁたしかに眠くなってしまうかもしれないものね…」
微妙に白けた雰囲気が流れる。
毒気が削がれたせいかパーマちゃんはなら今井さんの隣に座るといいわ。本当は棗君達の前の席なんて座らせたくないんだけど、なんだかあなたぼんやりしてる感じだし大丈夫でしょう、と席まで案内してくれた。
いや、できればそこにも行きたくないんだけど、という言葉は飲み込んで、まぁ一番後ろよりはマシかと付いていく。
ん?今井…?
席にたどり着くとずっとうつむいて何か作業に没頭していたせいで教壇からは見えなかった顔があがる。
「わ…美少女…」
きれいに整った顔立ち、さらさらと艶のある短い黒髪。
なんてことだ。私のお隣さんとなる彼女は蜜柑の親友、今井蛍だった。
「ありがとう。でも座るならできるだけ離れて座ってね」
ほんとうだったら隣に誰か来るのは嫌なんだけど。
彼女は原作通りクールだった。
バァンと勢い良く開け放たれたドアの音と共に響く底抜けに明るい鳴海先生の声で目が覚めた。
「お、はようございま…す。」
まだぼんやりとする目を擦り、ここへきてからようやく見慣れてきた日に透けてキラキラと光る見事な金髪を眺める。寝て起きたら自分の部屋にいて、昨日のことはすべて夢だった。なんてことにはならなかったらしい。はぁぁと重たい溜息がでる。岬先生はすでに起きて出かけてしまったのか部屋には私一人しかいない。
「こらこら、朝からため息なんて幸せが逃げてちゃうぞ~。さて、そんなことより。実は今日は君にプレゼントがありまーす」
きょとんとする私の目の前で、ジャーン!!と誇らしげに掲げられたそれは、大きな襟に細身の赤いリボンのついた黒の上着と赤と黒のチェックがかわいらしいスカート。
「アリス学園初等部へ仮入学おめでとう!これは君の制服だよ♥」
そう言って鳴海先生はまだベットに座っている私に制服を手渡しながら、「これからよろしくね」と、今度は茶化したような声音は潜めて優しく笑いかけてくれた。
そっと手渡された制服をなでる。これが、アリス学園の制服。
漫画で見ていた時からかわいいなとずっと思っていた。憧れだった制服は、実物はもっとずっと素敵で、純粋な喜びに笑顔が浮んだ。
そんな様子を意外にも静かに見守っていた鳴海もまた微笑み、喜んでもらえたようでよかったと頭を撫でられる。
ぐりぐりと遠慮なく撫でくりまわされながら、これからのことを考えた。
制服のおかげか、前向きな気持ちが湧いてくる。ここは憧れだったあの学園アリスの世界。あまり勝手なことはできないけれど、楽しまなきゃね!二回目の小学生の生活、初等部らしく振舞えるかは不安だけど。
とりあえず今日これからの生活で守っていこうと思ういくつかのルールを自分なりに決めた。
1.元いた世界の自分のことは話さない。記憶喪失だと押し切る。
2.主要人物およびこれから起こるであろう事件その他になるべく接触しないように努力する。
3.目立たない。
これを守りさえすればきっと私がいつか帰る時にもお話は壊れない…はず。
それに私は学園生活をエンジョイしたい!そのためにはひっそりと過ごすのが一番だろう。
「さ、着てごらん」
ニコニコと楽しそうな笑顔にうながされて真新しい制服に袖を通す。
サイズはぴったり。
「うん、思った通りだ。よく似合っているよ」
鳴海先生が目の前に持ってきてくれた姿見には、かわいらしい制服に身を包んだ自分がいた。
体は幼くなってしまっているけど思った以上に違和感のない姿にほっとした。
「えへ、えへへ…。嬉しいです、ありがとうございます」
鳴海先生のお世辞に素直に喜んで笑えば、彼はふわりと私を抱き上げた。
「やっと笑ってくれたね!かーわいーぞぉ~」
くるくる回りながら安心したように、嬉しそうに笑ってくれるから、私もまたつられて笑ってしまった。
ーーー
楽しいお着替えが終わった後、初等部の校舎へ車で移動。広い、広すぎるぞアリス学園。
教員棟から校舎への道は長く、街いくつ分なんだろうかと思いながら流れる景色を眺める。
ようやく建物が見えてきたところで車を降り、鳴海先生に教室までの道を案内されながら目的の場所までやってきた。
扉の上の小さな看板に書かれた文字は
【B組】
今の年齢的にここ以外にないのでまぁそうですよね。しっかりバッチリ初等部B組へ入ることになった私は、さっそく自分自身で決めたルールを守れるのか、主要人物に関わらないように努力できるだろうかと不安でいっぱいになった。
鳴海先生にろうかで待っているよう言われたので待機。
教室の中から明るい声が響いてきた。
どうか変な紹介だけはしないでくださいとうんうん唸りながら声を聞く。
「はーいみなさん、今日はこのクラスに新しいお友達が来ま~す。なんとその子は、記憶喪失です!」
「「記憶喪失!?」」
ザワリと教室中がざわめく。
聞こえてきたどストレートな紹介に、その通りではあるがそれではあまりに色物転校生ではないかと一気に入りづらくなってしまった空気を感じて動悸が激しくなる。
「そうです、自分が住んでいた場所も、どうしてここに来たのかも、自分のアリスが何なのかも、ぜーーんぶ、わかりません♥でもだからって特別扱いしたりせずに仲良くしてあげてください。それじゃあ転入生ちゃーん、入っておいでー」
入れるかぁぁーーーーー!!!心の中で目いっぱいツッコんでドアの前に立ち尽くす。
顔が熱い。足が震える。
「あれぇ?転入生ちゃーん?…照れちゃってるのかな。おーい、入っておいでー。ひょっとして僕のことも忘れちゃったのかな~?」
おーいとすっとぼけた声で私をよぶ鳴海先生に、これ以上躊躇っても余計ひどくなる予感しかしないと慌てて扉へ手をかけた。
「ふ、ふぁい!」
うわぁ声裏返っちゃった…!
意を決して教室に踏み込んでいくとビシバシとみんなの視線が突き刺さって痛い。鳴海先生のばかっ。
「緊張しているね、ロボットみたいになってるよ」
けらけらとからかってくる先生が憎い。そう思いながらも緊張で固まった表情のまま教壇の上に立つ。
「はい。この子が転入生の女の子です。自己紹介、できるかな?」
背中に手を添えられて、ポンと叩かれた。
「あ、えと。はじめまして…柊かんなです!よろしくお願いします」
顔はますます火照っているのだろう、頭がくらくらする。
ぺこりと頭を下げたままでいるとざわざわと騒がしいままの教室から女の子の鋭い声が響いた。
顔を上げてみればパーマ頭の女の子が私のほうを睨み付けている。
「先生、アリスがわからないってどういうことなんですか!?」
この子は!!!犬猫体質のツンデレスミレちゃんだーーーーーーー!!!!!!
ひゃあひゃあと心で騒ぎつつ、つい笑顔になってしまいそうな頬を引きつらせる。
不自然に表情を作ったせいでものすごく感じの悪い顔をしてしまった気がするがしょうがない。急にニコニコする方が怖いもんね!!
「うーん…どういうことって言われてもねぇ。わかりやすく言うと彼女はアリス能力者、予定って感じかな。もしくは(仮)ともいうね」
「「アリス能力者、予定?」」
「彼女はまだアリスがわからない。ただ能力を持っている可能性が極めて高い。それをふまえての仮入学ということでこのクラスの生徒になりました。だから今日からしばらくの間彼女には自分のアリスを見つけるための努力をしてもらわなければなりません。みんなも協力してあげてね♥では以上かいさ~ん!」
スミレちゃんを皮切りに質問責めになりそうな空気を感じたのかさっさと話を切り上げて教室からあっという間に出て行ってしまった。鳴海先生…逃げたな。
去り際に今日は空いてる席に座ってねとだけ言われておいて行かれてしまった私は教壇の前でおろおろとたたずんでいた。
ーーー
ざわざわと教室は騒がしいままだ。
ざっと見回したB組はまさに混沌。描いた絵が宙を漂い、人は浮き、ごちゃごちゃと謎のおもちゃや機械がそこら中に散らばり、実験器具を持ち込んでいる子の手元の試験管からはあざやかなピンクの煙が朦々と立ち込めていたりする。まさに自由そのもの。良い意味ではなく。
そんな個人プレイヤーを集めた教室中の特殊な空気の中、謎の一体感を持ってクラスメイト達の視線を一身に浴びている私はとりあえず、と空いている席をさがした。
まず目についたのは窓際の一番後ろ。あそこは絶対にごめんだ。
だってあそこには乃木流架と日向棗が座っている。本来であれば佐倉蜜柑が座ることになる席だから。しかし、今この場にいないことを考えると彼女はまだ入学していないということだろうか。
それにしても空いている席が全然見当たらない。他にあるとすればうしろから二番目。彼らの前の席くらいだ。困ったなぁ…。
「できるならあの後ろの方の席だけは座りたくないんだよなぁ~」
そうそう。あの辺には…って
「え、ええええぇぇ!!」
「はじめまして、僕のことは心読み君ってよんでねぇ」
「なっ…あ……」
ショック。失念していた。
さすがに心読み君だけは、というか心の中でまで嘘はつけない。
「僕のこと知ってるのー?嘘ってな「はっはじめまして心読み君、これから仲良くしてね!」」
「ねぇ嘘って「ところで空いてる席って他にないかなぁ!!」」
「……。今のところあそこだけだよー」
マジか…。
心読み君はしゃべらせてくれない…としょんぼりとした顔をみせた。
うっかわいい…。ごめんねごめんね。君が悪いわけじゃないんだけどどうしても私のことが知られてしまうわけにはいかないの!罪悪感で胸が締め付けられるのをこらえていると、その心を読んだのか「そっかぁ、いいよ。秘密にしておいてあげる。フフ」となぜか嬉しそうに去って行った。
となりのキツネ目くんに「あのねー僕かわいいんだってぇ~」と報告している姿が目に映る。
嬉しそうだったのはそれか。
「ちょっと!柊さん、あなたさっきから聞いてれば棗君達の席に座りたくないってどういうことなの!?」
パーマちゃんが信じられないといった怒りの声をあげる。
「まー堂々とあそこの席を選んでいたらそれはそれで許せないけど、失礼じゃない!」
「ご、ごめん」
「私じゃなくて棗君とルカ君にあやまりなさいよ」
え!私謝らなきゃいけないような悪いことしてないよね!?びっくりして彼女を見るが怒ったままのスミレちゃんはフンと腕を組んでこちらを睨めつけている。えぇ…小学生怖い…。
「自分も小学生なのにねー」
ぼそっとつぶやかれる心読み君の声にハッとする。
そうだったいけないいけない。
目線を上げて一番後ろの席を見ると名前の上がった彼らもじっとこちらの対応をうかがっているようだった。
「ごめんなさい、二人の隣が嫌だったんじゃなくて、その…一番後ろの窓際って…」
頭をフル回転させて言い訳を考える。どうにかしてこの場を平和的にまとめなくては。
あそこに座らずにすんでパーマちゃん達の機嫌も損ねない理由、理由、理由…。
「…あっ。…ね、眠くなっちゃうから!」
教室中がしんとする。
あれ?
「そっ、そうね…まぁたしかに眠くなってしまうかもしれないものね…」
微妙に白けた雰囲気が流れる。
毒気が削がれたせいかパーマちゃんはなら今井さんの隣に座るといいわ。本当は棗君達の前の席なんて座らせたくないんだけど、なんだかあなたぼんやりしてる感じだし大丈夫でしょう、と席まで案内してくれた。
いや、できればそこにも行きたくないんだけど、という言葉は飲み込んで、まぁ一番後ろよりはマシかと付いていく。
ん?今井…?
席にたどり着くとずっとうつむいて何か作業に没頭していたせいで教壇からは見えなかった顔があがる。
「わ…美少女…」
きれいに整った顔立ち、さらさらと艶のある短い黒髪。
なんてことだ。私のお隣さんとなる彼女は蜜柑の親友、今井蛍だった。
「ありがとう。でも座るならできるだけ離れて座ってね」
ほんとうだったら隣に誰か来るのは嫌なんだけど。
彼女は原作通りクールだった。