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910号室

「見るな、銀八……」
 請う高杉に不謹慎な事を思う。あー、エロいなぁ


 定期試験を終えた金曜日の放課後、持ち帰り仕事を少しでも減らしたくて国語準備室で採点をしていた俺。明日は昼から高杉がお泊まりに来る。もちろん子供のパジャマパーティーじゃない。大人のパジャマパーティーを存分に楽しみたいなら、せめて火曜日に返却する答案用紙までは片付けておくのがデキる大人ってもんだ。
 伸びをしながら窓の外に目をやれば、とっぷり日は暮れている。そろそろ帰るか、デスクの端に置いていたスマホを手にすると通知が1件。

 メッセージを開くとベッドで眠る高杉の写真だけ。アイツに自撮りを送ってくる可愛げはないし、本当に眠っているなら自撮りはできない。
誰が撮った?
 入ったことはなくても高杉の部屋だと分かる。初めて訪れた時
「言われても気にならなかったがお前ェの部屋も全く生活感ねェな」
 ベッド以外は置いてなさそうな部屋で眠る高杉の写真を見ながら、そう話していたことを思い出す。不自然な両手の位置が気になりピンチアウトして息を呑んだ。後ろ手に手錠が見える。
 それから俺どーしたっけ?とりあえず答案用紙を全部バッグにブッ込んで準備室に鍵掛けたかな?拉致られる程ヤワじゃねェ高杉が家に上げる数少ない友達。スクーターを飛ばしながら頭ん中に浮かぶのはグラサン野郎、河上だ。いつも高杉の左後ろに張り付いてガン飛ばしてくんだよ、絶対ェあの野郎の仕業だ。他に誰がいるってんだ?
待ってろ、高杉!助けに行くからな!!

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 何度も送ったマンションに着いて見上げる9階の角部屋、910号室には明かりが灯っていた。オートロックの部屋番号を押すと返答もなく自動ドアが開く。玄関前で質の悪いイタズラであってくれと願いながらインターフォンを押したが2度目にも出迎えの気配は無く、ゆっくりドアノブを捻ると呆気なく招き入れられた。オートロックを解錠した誰かを意識しながら声を張る。
「高杉〜、可愛い写真に我慢できなくてセンセー来ちゃったよ」
 きちんと揃えられたローファーが2足。こういうところに育ちの良さが滲み出てしまう生徒2人が微笑ましい。
 そんな事に感心している場合じゃない、ソロリと玄関を上がる。廊下の突き当たり、ドアの上半分に磨りガラスの嵌め込まれた部屋がさっき明かりを確認したリビングだろう。間取りは1LDKと聞いていた。わざとらしく半開きにされたドアから薄暗い廊下に昼白色のライトが斜めに線を引く。周りに意識を配りながら顔だけ突っ込むと肌蹴た赤いシャツ、下半身には何も纏っていない高杉がフローリングの床に転がっていた。目が合い来るなと言いたげに首を振る。

 片足だけ部屋に入った時、猿ぐつわを咬ませられた高杉が言葉にならない声を発した、と同時に何かに躓く。盛大にコケた俺の左腕を誰かが持ち上げ、カシャンと安っぽい金属音を鳴らす冷たく硬いモノが押し当てられた。左手首に鈍く光るオモチャの手錠は片方をドアノブに固定されている。
 こりゃ、ヤラれたね……
 ドアの裏に隠れていた河上が俺を見下ろす。
「あの程度の写真で飛んで来るとは晋助に執心し過ぎではないか? それとも拘束プレイがお好みか?何れにしても貴様の相手をさせられている晋助が気の毒でござるよ」
 コイツのスカした話し方ってムカつくんだよね
「気の毒じゃねェよ、俺の変態プレイを晋ちゃんは受け入れてんの。NTRやろうとしてるお前ェの変質者プレイと一緒にしないでくんない?」
 フン、口端に笑みを浮かべる河上がポケットから取り出した小さなリモコンを俺の目の前にぶら下げる。
「いつまで強がっていられるものか……」
 呟くとリモコンのボタンを押した。

 高杉の腰がフルリと揺れ大きく息を吸っては吐き出し始める。
 はぁーん、ローターでもブッ込んだか?こんなモンで啼いてたまるかと深呼吸で堪えてる姿がいじらしい。一昨日のピロートークで珍しく
「こういうのはお前ェだけだ……」
 掠れた声で囁く突然のデレが蘇り、現状に相応しくない幸せが脳内を満たす。拾いたくはない快感に反応してしまう細い腰回りに散らばるのは俺が付けた赤い印。消えない内に何度でも、消えたら消えたで何度でも赤い印を焼き付ける。形の良いパーツが整然と並ぶ顔の邪魔にならないなら、ギャグ抜きで眉間に〝銀〟の焼き印をしてやりたいくらいだ。万が一も無いけど高杉が許してくれたとして俺が笑っちまうから止めておく。
それにしてもエッチな身体になっちゃって……あ、そうしたの俺だわ

「随分と楽しそうだが、晋助を助けたいとは思わないのか?」
 苛立ちの混じる河上の声に
「助けられなくしてんのお前ェじゃん。頼んだら止めてくれんの? 今日の先生はイチゴ牛乳くらいで折れねェよ」
 ハァ、腕組みしたまま溜め息を吐いた河上と視線がかち合う。数秒の後、先にフイと視線を逸らした河上が高杉の後ろに膝を突きながらベルトのバックルに手を掛けた。
「や……めろ、万、斉……」
 猿ぐつわを外された高杉の途切れがちな言葉を無視して、力任せに引き抜いたローターが床に投げつけられた。倒れた缶ビールが作る水溜りをジュっと跳ねて転がるローターは壁で止まり、フローリングの床に一定速度の振動音が響き渡る。
……クハッ、ケホッ……
 小さく咳込む高杉の下半身を腹の下から持ち上げた河上は、これでも平気でいられると?口にしながら自身の熱を一気に押し込んだ。

 ぁんんっ……奥まで届いたのか、堪らず高杉が1度だけ大きく音を漏らした、1度きり。
 挿入られる覚悟はしていてもローターでグズグズに準備のできた身体を貫かれ震える脚は伸びきり、河上が支える下腹部だけ浮いた不自然な体勢。
 後はひたすら河上が与える悦楽を嫌悪する様に甘い啼き声を漏らさない。強く握り締めた掌には神経質に切り揃えられた深爪が食い込む。それでも素直に感じ取ってしまう高杉の先端は半勃ちのまま、河上の動きに合わせ床を滑りながら溢れた蜜がトゥルトゥルと糸を引く。

 そして冒頭。
 見るな、身体の自由を奪われても抵抗を諦めない高杉がエロくて困っている。
 良い子だね、当たり前な気もする。俺以外の棒で突かれても気持ち良いけど善くはないだろ?
可愛くて仕舞い込んでいたい恋人がNTRているのに俺は他人事の様に高杉を綺麗だと思ってしまう。嫉妬や怒りでキレ散らかすのは子供じみた策に嵌まるみたいで止めておく。河上を煽る材料にしかならない。
 愛が足りない?いや、セックスなんて棒と穴があれば手軽に欲を満たせるからね。精神論?うん、そーかも。
 でも確信したね。俺が見てる前でハメられた高杉が発情期の猫みたいにギャーギャーやかましかったら、河上に酷い事されて可哀想だね、だけど俺も辛いからバイバイで終いだ。相手は誰でも良かったのかよって話。

 それより強く唇を噛む高杉の鼻呼吸が荒くて、いっそ思い切り声を、声と一緒に怒りも羞恥もグシャグシャの感情を吐き出さないと内から壊れてしまう。

 欲のまま根元まで捻じ込んだ河上は挿入る時の勢いが失速してピタリと止まり肩で息をしている。検索の知識どころじゃない知らない感覚に持っていかれそうなんだろう。
受け入れるようにできている女以上に狭い中は動かなくてもイケる締め付けで、抗う高杉の意に反して食らい付く。漸く息を整えユルユルと慣れた腰の動きを始めたが男は初めてらしい。ローションの使い過ぎが高杉の膝下に零れビシャビシャと不快な音をたてる。高杉より息が荒いのは思うより早く限界が来たのか。いつもスカした顔に焦りが見え始めた。高杉は額を床に付け、止めろと叫ぶように頭を振り続ける。
 程なく河上の律動が止まり天井を見上げ大きく息を吐き喉仏が上下した。直ぐに抜かないのは名残惜しさじゃない事を知っている。中イキどころか吐精もしていない高杉の内側は、もっと寄越せと絡み付き抜きたくても離さない。熱を放って直ぐの敏感な状態で絞るように包み込まれれば、動かなくても次の波が襲って来る。

 やっと抜いた河上は尻もちをペタリとつき焦点が定まらない。女より良かったセックスに感動して?いや、籠った熱に浮かされてやった事の重大さに冷静を取り戻した頭が気付いたんだろう。
 コイツは自滅した。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 初めは小さな不満に似たモノだったかもしれない。いつも一緒に遊んでいたA君がC君とばかり遊ぶのが気に食わない程度の。誰にも靡かない高杉が俺と2人きりで会い、何を話し何をしているのか知りたくもなる。そうこうしている間に元から惹きつける不思議な魅力を持った同性の友達に色気を感じてしまったら、ただでさえ渋滞している思春期の頭は爆発寸前だ。友達だと自分に言い聞かせても膨らんでいく想い、同性に抱く劣情、乱れる高杉の夢でパンツを汚したかもしれない。声も笑顔も身体も全てを自分だけのモノにしたいと囚われてアホになるのが恋なのに、冷静で賢い未成年は自分が可笑しくなったと勘違いしてしまった。可笑しな事じゃない、高杉が特殊なだけ。その高杉に色を着けたのは俺。
 河上の澱んだ想いは安易に俺への嫉妬に代わり、手に入れたくて打つけた欲は高杉を傷付け手離す真逆の結果になった。
素直に伝えていれば気不味い期間はあっても好意を無下にできない高杉だから、いつか笑い話になっただろうに。

 小刻みな高杉の呼吸の中、ローションと白濁に塗れたまま拭いもしないで膝まで下ろした下着とスラックスを元の位置に戻した河上は、泣きそうな顔で鍵を2つ俺に渡すと出て行った。玄関ドアが閉まる音で悪い夢は終わらない。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 自分の手錠を外し高杉を自由にする。ローターの電源を切り掛け布団を持つ俺の背に
「帰れ……」
 うつ伏せのまま感情の無い弱々しい呟き。それを無視して抱き起こし掛け布団に包む。払い除けようとした手は俺の腕に逆らう気力も無く床に落ちた。背中から伝わる呼吸が静かになっても髪を梳き頬に触れ俺の体温を、側にいることを感じさせる。1人になりたいと言葉も無く伝えてくるが、それはできない。消えてしまいそうだから。
触れることで汚れたなんて思っていないと分かってほしい。河上にあんな事をさせてしまったのも、それを俺に見られてしまったのも、お前は自分のせいだと責めるだろ?勝手に可笑しくなった俺と河上が悪いのに。

 部屋の空気が2人を侵していく。
 高杉を連れ出すのに使ってはいけない言葉を敢えて選んだ。
「なぁ、俺に悪ィって気があんなら今から俺ん家行かない」
 振り向いた瞳は見開かれ悲しく揺れたが返事の代わりに小さく頷いてくれた。
 ベッドの正面にある引き戸を開けるとウォークインクローゼットになっているのがマンションって感じ。俺ん家の風呂場より広いかも?足元にあったショッパーに着替えと筆記用具しか入ってなさそうな薄いカバンを詰める。
 クローゼットを出る時、ドアの方で何かが光った。指で摘むと壁からドアまで脹脛の位置にギターの弦が張られている。
 なるほどねぇ、こんなに細くちゃ気付かずコケるわ……

 言われるままにノロノロ動く身体は息をしているのかも分からない。服を着せ裏道を選び家に着くと浴室に直行した。浴槽に湯を張りながらバスチェアーに座らせ、着せたばかりの服を脱がせ洗濯機に放り込む、ついでに俺の分も。
 あんな事があったせいか髪がベタついてる気がした。気がしただけ、そんな事はない。共有できなくても側に居たくて連れて来たはずが、自分に生まれていた先入観に失望した。
 身体を洗い流し湯が半分程度の浴槽に浸からせる。ぼんやり浴室の壁を見ている高杉の目に映るのは約2時間前の悪い夢。
 高杉の背後から浴槽に浸かると狭い洗い場は洪水になり渦を巻きながら排水口に消えていく。
「お前ェが汚れたと思ってたモンは流れてったよ」
 抱き込むと躊躇いがちに指先が触れてきた。いつものように指を絡め前から考えていた事を口にする。
「なぁ、ここに越して来れば?古いし快適じゃないけど、あの部屋よりはマシだろ」
 狡い俺は高杉に選ばせる。こんな問われ方をしたら答えは1つしかないのに。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 今日の事は俺のせいだ。家へ来る前、掛け布団で高杉を包んだ時にヘマを見つけてしまった。
 確かに河上は想いを燻らせていたが、いきなり凶行に走る愚かなヤツには思えない。時を待っていたとしても力に屈しない高杉を間近で見ていれば、今の関係を壊して得られるモノは無いと分かるはず。俺が知る限り若気の至りに至らない河上は何時スイッチが入ったのか?

 高杉の左耳朶の後ろに赤い印。跡の濃さから一昨日の夜を思い返す。
 風呂上がりに高杉がフラリと現れ、さすがに試験中はダメだと諭しても
「100点だ、今日の問題作ったのお前ェだろ」
 7cmの絶妙な上目遣い、夜遊び帰りに寄った風で立ち昇るシャンプーの香り、スルリと首に腕を回しながら
「なぁ、ご褒美くれよ先生」
 見せかけの理性は軽く飛んでいった。
 普段は服で隠れる場所にだけ付けるのに、甘える仕草と言葉で夢中にさせられたらしい。耳朶の後ろに付けた記憶が無い。記憶は無くても跡はある。
 昨日の朝、いつも通り高杉と並んだ河上は何を思っただろう。俺とシテいる確定の跡に怒り、嫉妬、執着、ない交ぜになった負の感情が事に及ばせてしまった。試験終わりまで我慢したのは学生らしい配慮か、やろうとしている事への迷いか?どちらにしてもローターをブッ込んだ時点でアウトだ。

「いいのか……」
 絡めた指が僅かに動く。

 俯く高杉の項に吸い付きたいのを我慢して腕に力を込める。性の臭いがする事は遠ざけよう。暫く、いや、この先できなくても構わない、傍に居てくれさえすれば。お前に傷を負わせたのは俺だから責任を取るなんて陳腐な言い訳で隣にいてもいいだろう?他のヤツじゃ物足りないくらい甘やかして大切にするから。生徒に時間を取られてる間に今日みたいな事があるかもしれない。卒業したら教師は辞めて高杉だけの先生になろう。そうすれば離れずに見守っていられる。ヒトが怖いなら外に出なければいい。進学や就職でまた変なヤツが出てくるかもしれないと考えただけで吐き気がする。もう誰の目にも触れさせたくない。贅沢はできなくても傷付かないように護るから。なぁ、俺だけの高杉になってくれよ。
 いつか今までの自分を取り戻して今日の事を振り返った時、護る振りをして懐に収めた俺の狡さに聡いお前は気付く。もう気付いているかもしれない。それでもお前は仕方ねェなと俺を赦すんだ。誰よりお前を傷付けているのは俺なのに、どうしたって俺たちは離れようにも離れられない、そうだろう?

 凭れてきた高杉と目が合う。額にキスを落とすと安心したのか目を閉じた。





 可哀想な高杉、お前は910号室に囚われてしまったんだ…















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