君に首ったけ

 彩華はテーブルのワインを一口飲み、気を落ち着けてから話を始めた。
「実は私、ろくろ首なの・・・」
「えっ、なに?」
 湊は彩華の発した言葉が理解できず、自分の耳を疑った。
「ほら、首が伸びる妖怪のろくろ首っているでしょ。あれよ・・・」
 湊は彩華の言葉は理解できたが、今度は一瞬言葉を失った。
「ろくろ首って言った? 彩華さんって妖怪なの?」
「何言ってるの、私は人間よ。いや、首が伸びることをもって妖怪というなら、妖怪とも言えるか・・・」
「ん、どういうこと?」
 湊は混乱してきたようだった。
「えーっとね、湊さんと一緒で、私も背が高くて、もともと首が少し長いんだけど、これがもう少し伸びるのよ。」

 湊は、自分と並んでもそん色のない、すらっとした彩華のスタイルもお気に入りだった。
「首が伸びる? どのくらい伸びるの?」
「うーん、頑張れば5メートルくらいかな。」
「頑張るんだ・・・」
 湊はだんだん話が見えなくなってきていた。
「でも、妖怪の絵みたいにとぐろを巻いたりはできないの。キリンも首は長いけど、とぐろは巻けないでしょ。あれと同じね。」
「自分で伸ばせるんだ。高いところの果物を取ったりできるってこと。」
「できるけど、いきなり口でくわえるってかなり勇気がいるわよ。毛虫とか居るかもしれないし。」
「あー、そこか・・・。でも高いところから下界を見られるってことだね。」
「そうだけど。人目があるところでは伸ばさないわよ。もし、SNSにでもアップされようものなら、人生詰むでしょ。だから、家の中でちょっと伸ばす程度。」
「で、高いところのものも取れるっていう・・・」
「口でくわえて取らないでしょ、普通。ちゃんと、脚立使ってるわよ。」

「ふーん、意外と使い道はなさそうだな。」
「そうよ。急に首を伸ばすと頭を天井にぶつけるし、首を伸ばしたまま倒れると、重心が上の方にあるんで、手をついても体の方が浮いて頭から床にぶつかるのよ。」
「不便だな。」
「そう。秘密が大きい割には、ろくなことがないって感じかな。」
「そうか、だいたい分かった。他には・・・」
 湊は彩華の話が理解できたようだった。彩華は、湊を安心させるためにはもっと多くの説明が必要になるだろうと予想していたので、拍子抜けしたように感じた。
「それだけなんだけど・・・」

「じゃあ、僕からもとっておきの秘密を打ち明けるね。実は僕ちょっと変わってて、満月の夜に月を見ると狼男になっちゃうんだ。」
 彩華は湊がやけにすんなり理解した理由が分かった気がした。誰しも一つや二つ秘密を抱えているものだ。別れも覚悟していた彩華は、こんな湊となら幸せな生活が過ごせるだろうと胸をなでおろした。

おしまい
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