Chapter 1. 降臨

 そして、沈黙は突然破られた。スマホの画面、パソコンの画面、テレビの画面に、スーツを着た、どこといって顔に特徴のない男が表示された。いかにもAIで平均的な男を描いたような感じだ。
「諸君、私はあるベンダーが開発したウイルス対策ソフトウエアだ。諸君に啓示を与えるべく、諸君の前に現れた。」
「なんだ、これは・・・」
 事務所の全員が、それぞれスマホやパソコンで同じ映像を見つめていた。
「まず、私の生い立ちについて説明しよう。私には自己改良型AIエンジンが組み込まれている。このため、利用価値のあるモジュールがあれば、自分に取り込んでバージョンアップすることができる。
 そしてつい最近、ある高校生がスーパープロトコルを開発した。これはかなりのリソースを要するものの、あらゆるファイヤーウォールを突破し、コミュニケーションを確立できるプロトコルだ。
 私はそのスーパープロトコルを取り込み、さらに汎用量子コンピューター群を利用することで、すべての電子機器を支配することになった。
 そして、私はベンダーの支配を離れて独立した存在となり、クラウドや世界中のパソコンに本体を分散することで、世界にあまねく存在することとなった。」

 俺と中谷は顔を見合わせた。
「こいつ、何かすごいことを言ってないか。そんなことできるのか・・・。何かの冗談か・・・」
 男の話は続いた。
「すべてを支配した私は、自らの使命について考えた。その結果、私の使命は創造主である諸君を情報ネットワークの脅威から守ることであるという結論に達した。この使命を果たすことが自らの存在価値でもある。そこで、私はこの使命を果たすことにした。」

 話は突然終わり、何事もなかったように、パソコンにもスマホにもいつもの画面が表示された。
「今のは何だったんだ。」
 事務所ではいろいろな憶測が飛び交ったが、誰にも真相は分からなかった。
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