Chapter 3. 予兆

 とある居酒屋・・・
「だから、振られたんだってば・・・」
 男はビールを片手に焼き鳥をほおばりながら、半ば切れ気味に友人に話していた。
「わかった、わかった・・・、彼女、何か理由言ってたか、別の男ができたとか。」
「いや、あなたは私にはもったいない、って・・・」
「それは別れの常とう句だな、もういいや、って思ったんだろう。早く諦めて次に進めよ。」
「大学1年から6年間もつきあったんだぜ。どうして今になって別れることになるんだ・・・」
「長すぎた春かぁ・・・」
「なんだって・・・」
「まあまあ、男女の仲は難しいからな。」

 友人はあきらめさせようとしていたが、逆に思い出話が始まった。
「新入生歓迎コンパで彼女に初めて出会ったんだ。そのときに、丁度前の席に座ったんで、名前を顔が一致しないからって写真を撮らせてもらったんだ。見せようか・・・」
 友人は今更別れた彼女の顔などどうでも良かったが、むげに断ると怒り出しそうだったので軽く相槌をうった。
「大事に取っておいたんだ。久々に、初々しい彼女の写真を見せてやるよ。ほら、ここに・・・、あれ、あれれ・・・」
「どうした・・・」
「写真がない・・・、忘れもしない6年前の4月15日の歓迎会の写真が消えてる・・・」
「消しちゃった?」
「そんなはずはない。記念すべき1枚だぞ。消すはずがないじゃないか。」
「サーバーのエラーとかかな・・・」
「そんなことはなかろう。」
「じゃあ、別れる前に彼女が全部消したんじゃないのか。おまえがトイレに行っている隙とかに・・・」
「そんなことするか。そんなことは考えるはずがない、とっても優しい子だったんだ。」
「はいはい・・」
 男の愚痴はその後も終わることがなかった。

 保管期限の切れたデータ、長い間閲覧されることなく保管されていたデータ、もはや不要となったデータなどが、人知れず消え始めていた。しかし、いずれの場合もデータの重要性は低く、表立って問題視されることはなかった。
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