ミセマモール

 そういえば、白いパネルの文字がいつもより少ないように感じる。俺は、改めて白いパネルの文字を読んでみた。
 「当店は加藤様とのお取引は行いません。ご了承下さい。」
 「えっ、なんだと。食えないってことか。いや、そもそも何で俺の名前が表示されているんだ。」
 俺は唖然として、少ない文字の続きを読んだ。
 「ご質問等ございましたら、株式会社ミセマモール お客様相談窓口へ」
 その下には電話番号が表示されていた。俺は何かの間違いだろうと考え、相談窓口へ電話してみた。
 「加藤様、こちらは株式会社ミセマモール お客様相談窓口でございます。この電話は有料情報サービスとなっており、10秒10円の料金が発生いたします。ご了承ください。」
 喋り方がどうもAIのようだが、それでも金をとるのか、俺は疑問に思いつつ、質問してみた。

 「近くの食堂に入れないんだけど、どうして?」
 AIらしき相手は即座に返事をしてきた。
 「はい、加藤様のご入店をお断りする理由を御説明いたします。加藤様は、昨日、竜門ラーメンにてラーメンを一杯注文されました。そして、ラーメンに髪の毛が入っていたというご指摘をされました。これに関して、店主に土下座での謝罪を求められ、加えて慰謝料を要求され、いつまでも居座っていらっしゃいました。当社は映像からカスタマーハラスメントの可能性が高いとAI判定し、その後、弁護士の確認によりカスタマーハラスメントと認定した次第です。」
 「俺はそんなことをしたのか。酔っていて何も覚えていなんだが・・・。」
 「かなりお酒を飲まれていたことは理解しております。しかしながら、酔っていれば何をしても許されるというわけではありません。加藤様の行為は、強要罪、威力業務妨害罪、不退去罪などにあたります。」

 「ちょっと待て。俺がやらかしたのは竜門ラーメンだろう。なんで、この食堂が取引しないって言ってるんだ?」
 「はい、竜門ラーメン様も、こちらの食堂も当社のカスタマーハラスメント対策システムのユーザー様でございます。加藤様の行動はすべてのユーザー様に情報共有されており、すべてのユーザー様のお店で入店をお断りしております。」
 「え、俺の行動をみんなで共有しただって。それはプライバシー侵害じゃないのか。」
 俺は、腹が減っているせいもあるが、だんだん腹が立ってきた。情報共有なんてSNSで晒されるとの一緒じゃないか。
 「はい、正確に申し上げますと、当社以外には加藤様のお名前、顔情報、どのような行為をされたかの情報は共有しておりません。ドアの横にある白いパネルが当社の端末になっており、そちらで加藤様のお顔を認識した際にお取引中止のご案内を差し上げているものです。」
 んーん、俺には返す言葉がなかった。しかし、俺の名前の出どころは確かめておく必要があるだろう。
 「なんで俺の名前が判ったんだ?」
 「加藤様がお使いのアプリにはお名前を登録されますが、当社に情報共有することが利用契約に書いてあり、そのアプリから情報を入手しております。」
 もう何を言っても無駄なようだ。しかも、時間ごとに利用料まで取られている。ものすごく理不尽な気もするが、おそらく個人で何か逆らうことはできない仕組みなのだろう。俺は何も言わず、電話を切った。

 「食堂はここだけではない・・・」
 俺は別の店を探すことにした。要は株式会社ミセマモールと契約していない店を探せばいいだけだ。
2/3ページ
スキ