【バランシング・ダンジョン】人使い

【バランシング・ダンジョン】人使い
                      -修.

 復活の概念がなく一度死んだら振り出しに戻る、この「バランシング・ダンジョン」には他にもいくつか特徴がある。その一つはすべての装備や持ち物に重量の概念があり、重たい装備は容赦なく体力を奪うということだ。強力な技や魔法も同じだ。十分に食事をとって、体力を確保しつつ攻略を進めないといけない。他にも装備の劣化の概念や、レベル上げの難しさなど、究極にシビアなダンジョン攻略はまさに冒険シミュレーターと言えた。

 前回、俺は新たな職業で地下30階までのソロ攻略を簡単に終えたが、地下31階からのチーム戦で間違ったコマンドを使ったため、チームに甚大な被害を与えた。強力なヒーラーのおかげで、なんとか地下31階のボスを倒すことができたが、地下32階でリーダーからチーム解散が宣言された。このため、新たなチーム編成で攻略を進めることになったが、途中で解散となるようなチームのメンバーは身勝手だったり、一癖あったりするやつばかりで、あえなくフロアボスに敗れてしまった。

 再び振出しに戻ってしまった。まあ、今回は俺の準備不足が原因となっているので仕方ないと言えば仕方ないが、外部情報がほとんどなく、自分の経験値のみが頼りとなる、このシビアなバランシング・ダンジョンではありがちのことなのかも知れない。

 俺は情報を集めるべく、外部の掲示板や、バランシング・ダンジョン内のアップデート情報を眺めていて、新たな職業として「人使い」という職業が実装されていることが分かった。
 「人使い?魔物使いみたいなものだろうか・・。」
 バランシング・ダンジョンで第2弾の重量概念が軽減された職業との説明がある。他のプレイヤーのキャラを使えるといったところだろうか。どんなレベルのキャラが使えるのか、自分のキャラの代わりに戦ってくれるのか・・・。いつものことながら、情報がない。特に新たに実装されたものは、使ってみないと分からないというのがこのゲームの特徴だ。

 前回もそうだったが、俺は、現時点では、すぐに死んでも失うものはないので早速試してみることにした。

 「ジャジャーン・・・」
 俺のキャラクターは、レベル1の人使いとして教会で目覚めた。装備を確認するが、前回の職業とは違い、特にこれといった特徴のあるものはない。しかし、戦闘コマンドに「召喚」というものがあった。

 いつものように俺は支度金を使って武器屋で木刀を買って装備してみた。
 「あれ、強さは剣士とほぼ同じか。ますます職業の特徴がわからんな。」俺は愚痴りながら、攻略を開始した。

 俺はパンや薬草も買い込み、早速ダンジョンの地下1階に入り、ソロ攻略を開始した。俺は前回の反省から、できるだけ早い時点で新たな機能を試してみることにした。

 「えい、召喚」
 敵は雑魚キャラだったが、他のメンバーに迷惑を掛けないためにも、この職業に慣れるためにも、ソロ攻略中の階層で使ってみるべきと判断したのだ。召喚コマンドを打ち込んだ直後、ゲームが1秒程度止まり、新たなメッセージウィンドウが開いた。そこには・・・。
 「すみません、なんか新しいウィンドウが表示されているのですけど・・・、これバグですかね?」
 誰だ、誰のメッセージなのだ。分からないまま、俺はいそいで返事を返した。
 「今、召喚コマンドを出したら、呼び出されたようです。」
 「あー、『人使い』の方ですか。」
 「そうです。」
 「分かりました。そっちは地下1階ですよね。こちらは地下2階でレベル3なのですけど、食料が足らないのでパン1個で請け負いますよ。」
 「請け負う?どういうことですか。」
 「召喚コマンド、初めてですか。説明しますと、パンとか報酬を払って、代わりに戦ってもらうってコマンドなのですよ。で、自分は食料不足なので、パン1個でいいです。」
 「あー、わかりました。じゃ、お願いします。」
 メッセージウィンドウの下には報酬ウィンドウが小さく表示されており、パン、道具、討伐報酬の何%といった選択肢が表示されており、パンに「1」が表示されている。俺には事情が完全には飲み込めなかったが。相手は内容を知っているようなので、任せてみることにした。
 「じゃ、行きまーす。」
 召喚したプレイヤーは自分のキャラを用いて一撃で雑魚キャラを倒してくれた。
 「毎度どうも、それじゃ。」
 直後にパン1個と共にメッセージウィンドウが消えた。

 どうやら人使いの職業は、少しレベルの高いプレイヤーを呼び出して、自分の代わりに戦ってもらうものらしい。確かにボス戦では有利かもしれない。しかし、いくつか疑問も残る・・・。

 もし召喚したプレイヤーとの報酬交渉がうまく行かなかった場合は、召喚失敗となるのだろうか。また、召喚したプレイヤーが負けて死んだ場合は自分も死んでしまうのだろうか。敵キャラに勝利して得た経験値は自分に入るのだろうか。謎が多い。とにかくやってみるしかないか・・・。

 俺は地下1階のフロアボスまでたどり着いた時点で再び召喚コマンドを試すことにした。
 「再び、召喚!」
 「こんにちは。召喚されましたね。こちらは地下3階でレベル4なので確実に倒せると思います。報酬は討伐報酬の100%でお願いします。」
 100%はないだろう。確かに、召喚したプレイヤーに全部戦ってもらうので、100%報酬と言われても仕方ないものの、自分には何もうまみがないではないか。もし経験値も得られず、討伐報酬も得られないとなると、強くもならず、食料も調達できない。次の地下2階の攻略はかなり困難なものとなるだろう。少し値切り交渉するべきか。なんか、みみっちいと思われるのも嫌だが・・・。

 「あの、自分の攻略が止まっていますので、今回は交渉不成立ということで。それじゃあ、がんばってください。」
 俺が考えあぐねているうちに召喚したプレイヤーは離脱していき、画面には「召喚失敗」と表示された。
 「これは無理だな・・・」
 そして1ターン攻撃も何もできないままフロアボスからとどめの一撃をくらい、俺は死んで、振出しへと戻っていった。言うまでもなく、他人を使うのは何より難しかった。

おしまい
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