【異星人外交官】モフモフ

 「所長、拡大画像を見てください。何か、黒い毛に覆われているみたいですよ。」
 「哺乳類に近いのか・・・」
 タラップ上の異星人の毛は、発着床を吹く風になびいていた。
 「所長、コンピューターの解析結果が出ました。画像解析からは、口や目や耳のような感覚器官も、手や足のようなものも見当たりません。黒い毛だけですね。それと、黒い毛にはステルス性があるようです。電波も、光も、音波もほとんど吸収しています。」
 「そうか。体表がすべて毛で覆われていて、感覚器官も手足もないとすると、いったいどのようなコミュニケーション手段なのだろうな・・・。いや、そもそもどうやってタラップを移動してきたのだ?異星人から、電波とか、磁力とか、何か出ていないか?」
 「何も出てないようですね。いずれのセンサーも反応なしです。」

 「うむ、予想がつかんな。とりあえず、こちらもエージェントロボットを出して、反応を見よう。」
 発着床から、人型のエージェントロボット1体がせりあがってきて、異星人と対峙した。すると、異星人はすーっと人型ロボットに近づいてきた。そして、ついに人型ロボットに重なった。
 「この行動パターンは接触型のコミュニ―ケーション手段のようだな。電気信号か何か受信していないか。あるいは毛の接触パターンに特徴があるとか・・・」
 「何もないですね。進展なしです。所長、ロボットからの近接画像が入ってきていますけど、この異星人は本当にモフモフしていて、なで心地が良さそうですよ。」
 「そうだな。もしかすると、これは異星人のペットで、異星人はペットを通じてコミュケーションを取ろうとしているのかも知れないな。考えすぎだろうか。」
 「所長、試しに、撫で撫でしてみてもいいですか・・・。まあ、ロボットが撫でるだけなので、こっちには何も伝わりませんけど・・・。もしかしたら、ご機嫌になって何か変化があるかも知れませんよ。」
 「膠着状態だからな、なんでもやってみよう。」
 「では・・・」
 部下はコンソールを操作し、人型ロボットのアームで異星人の上部を軽く撫でてみた。

 「ん?」
 部下が不思議そうな声を上げた。
 「所長、全然滑らかじゃないです。動かすと、何かいちいち引っ掛かりますね。なんだぁ・・・?」
 部下はディスプレイの解像度を上げ、腕の接触部を拡大した。
 「おおっ、毛が刺さっている!」
 「どういうことだ?」
 「所長、腕に毛が刺さっては抜け、刺さっては抜けしながら動いているようです。」
 「毛が刺さる・・・、もしかしたら異星人は哺乳類ではなく、棘皮(きょくひ)動物に近いのではないか。要はウニだな。黒いのは、毛ではなく、棘だ。であれば、何か毒・・、というか化学物質が注入されている可能性があるな。エージェントを回収して体表面を調査しよう。」
 部下はコンソールを操作し、人型ロボットを回収した。

 数日後、ロボットの胴体と腕の人工皮膚には、多数刺した跡があり、そこには様々な化学物質が注入されていることがわかった。そして、それが異星人のコミュニケーション手段であろうと推測され、刺されたら化学物質を瞬時に解析する装置と、化学物質を合成し、注射できる多数の針が人型ロボットに追加された。異星人の言語解析には、数十人の化学者と言語学者からなる一大プロジェクトが組まれた。数ヶ月後、ようやく異星人とのコミュニケーションが成立し、公式な挨拶が行われ、無事に異星人は立ち去ることとなった。

 離床していく宇宙船を見ながら所長は小さくつぶやいた。
 「やれやれ、とんだモフモフだったな・・・」

おしまい
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