東京コンクリートグレイブ
「行き止まり・・・」
もうすぐ地下鉄の通っている幹線道路の交差点というところで、俺の正面には工事中の大きなバリケードが立ちふさがっていた。まっすぐ行けば取引先まで5分といったところで道がなくなっていた。これはいったい何の工事だろうか。ちょうど幹線道路の交差点のあたりのはずだが・・・。しかも、この辺りは下水のような臭いがする。下水管の破損だろうか。俺はバリケードに張り付けてあった迂回路をスマホで撮り、取引先へ急いだ。
取引先の事務所は、はるか昔に出張してきた記憶の通りだった。結構年季の入ったタイル張りのビルで、事務所は5階だったはずだ。俺はエレベーターホールへ向かった。そして、また愕然とすることになった。
「点検中・・・、またか・・・。今日はよくよく付いてないな・・・。」
俺は5階まで階段を上り、事務所に辿り着いた。すでに10分ほど歩いた後の階段だったため、体中汗びっしょりになった。
「お久しぶりですね。暑かったでしょう。」
事務所では取引先の見慣れた顔が出迎えてくれた。
「はい、運悪く地下鉄が運休ばっかりで、JRを乗り継いで来ました。エレベーターも点検中で・・・」
「先に言っておけばよかったですね。最近、東京の地下鉄は運休続きなんですよ。漏水とか、トンネルの壁面剥離とか相次いでいるらしく、1日動いて2週間運休とか、数ヶ月運休とかもざらだし・・・。いわゆるインフラの老朽化ってやつですね。
東京は人口密度が高かったので空中とか地下を開発したでしょ。それでインフラが複雑になり過ぎて、もう老朽化に復旧が間に合っていないんですよ。首都高が閉鎖されるとか、遷都するとかいう噂もありますし・・・」
「もしかして、すぐそばの交差点の工事もそうですか。」
「そうです。このあたりは下水臭いでしょ。あそこは下水管が壊れて、交差点がまるまる地盤沈下したんですよ。下水管の横を走っている地下鉄もその影響で運休しています。もう1年位前のことなんですよ。」
「修理されないんですか。」
「はい、皇居とか虎ノ門のあたりは優先的に修理されますが、都心から少し離れるともう完全に放置ですよ。もうこのあたりは住民も居なくなりました。ほとんどのビルは空き家です。人手不足で、うちのエレベーターも長らく修理してくれません。これは東京全体で起こっている非常事態です。報道管制が引かれているのか、ニュースになりませんけどね。」
「道理でどこも人が少ないはずですね。」
「今回出張頂いたのも、これが理由です。当社ももう東京に居るのが困難になってきたので、仙台に本社を移すことになりました。それで今後どうするかを打ち合わせさせてもらいたくて・・・」
俺は、この会社の移転は仕方ないと思った。この環境では正常な業務の維持は難しいだろう。
そして俺は取引先と2時間ほど今後の取引について協議を行った。そして、協議の後、先方が帰り道を案内してくれた。
「ここからの帰りですが、この事務所からJR駅の反対方向へ2ブロックほど進んでもらうと、地下鉄の代行バスが走っているんで、そっちが近くて便利ですよ。旧市街なんで道は狭いですけど・・。」
俺は言われたとおりの道を歩いた。道沿いの建物は古いビルや民家が多くなり、蔦が絡まった建物や、半ば崩れかけた建物がほとんどだった。完全に崩れた建物には雑草が生え、敷地には木々が生い茂っていた。そして、代行バスの停留所は両側が緑の壁になった細い道に設けられていた。
このままインフラの老朽化と人口流出が続くと、東京全体が廃墟となり、コンクリートの墓場となる日も近いのではないだろうか。ふと見上げると、空にはトンビが悠々と舞っていた・・・。
おしまい
もうすぐ地下鉄の通っている幹線道路の交差点というところで、俺の正面には工事中の大きなバリケードが立ちふさがっていた。まっすぐ行けば取引先まで5分といったところで道がなくなっていた。これはいったい何の工事だろうか。ちょうど幹線道路の交差点のあたりのはずだが・・・。しかも、この辺りは下水のような臭いがする。下水管の破損だろうか。俺はバリケードに張り付けてあった迂回路をスマホで撮り、取引先へ急いだ。
取引先の事務所は、はるか昔に出張してきた記憶の通りだった。結構年季の入ったタイル張りのビルで、事務所は5階だったはずだ。俺はエレベーターホールへ向かった。そして、また愕然とすることになった。
「点検中・・・、またか・・・。今日はよくよく付いてないな・・・。」
俺は5階まで階段を上り、事務所に辿り着いた。すでに10分ほど歩いた後の階段だったため、体中汗びっしょりになった。
「お久しぶりですね。暑かったでしょう。」
事務所では取引先の見慣れた顔が出迎えてくれた。
「はい、運悪く地下鉄が運休ばっかりで、JRを乗り継いで来ました。エレベーターも点検中で・・・」
「先に言っておけばよかったですね。最近、東京の地下鉄は運休続きなんですよ。漏水とか、トンネルの壁面剥離とか相次いでいるらしく、1日動いて2週間運休とか、数ヶ月運休とかもざらだし・・・。いわゆるインフラの老朽化ってやつですね。
東京は人口密度が高かったので空中とか地下を開発したでしょ。それでインフラが複雑になり過ぎて、もう老朽化に復旧が間に合っていないんですよ。首都高が閉鎖されるとか、遷都するとかいう噂もありますし・・・」
「もしかして、すぐそばの交差点の工事もそうですか。」
「そうです。このあたりは下水臭いでしょ。あそこは下水管が壊れて、交差点がまるまる地盤沈下したんですよ。下水管の横を走っている地下鉄もその影響で運休しています。もう1年位前のことなんですよ。」
「修理されないんですか。」
「はい、皇居とか虎ノ門のあたりは優先的に修理されますが、都心から少し離れるともう完全に放置ですよ。もうこのあたりは住民も居なくなりました。ほとんどのビルは空き家です。人手不足で、うちのエレベーターも長らく修理してくれません。これは東京全体で起こっている非常事態です。報道管制が引かれているのか、ニュースになりませんけどね。」
「道理でどこも人が少ないはずですね。」
「今回出張頂いたのも、これが理由です。当社ももう東京に居るのが困難になってきたので、仙台に本社を移すことになりました。それで今後どうするかを打ち合わせさせてもらいたくて・・・」
俺は、この会社の移転は仕方ないと思った。この環境では正常な業務の維持は難しいだろう。
そして俺は取引先と2時間ほど今後の取引について協議を行った。そして、協議の後、先方が帰り道を案内してくれた。
「ここからの帰りですが、この事務所からJR駅の反対方向へ2ブロックほど進んでもらうと、地下鉄の代行バスが走っているんで、そっちが近くて便利ですよ。旧市街なんで道は狭いですけど・・。」
俺は言われたとおりの道を歩いた。道沿いの建物は古いビルや民家が多くなり、蔦が絡まった建物や、半ば崩れかけた建物がほとんどだった。完全に崩れた建物には雑草が生え、敷地には木々が生い茂っていた。そして、代行バスの停留所は両側が緑の壁になった細い道に設けられていた。
このままインフラの老朽化と人口流出が続くと、東京全体が廃墟となり、コンクリートの墓場となる日も近いのではないだろうか。ふと見上げると、空にはトンビが悠々と舞っていた・・・。
おしまい
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