この一人の学生もＳ教授もＳ教授の友人も知らないことが二つだけあった。

　その一つはＳ教授の友人が突如景気良くなった原因は偶然でも幸運でも何でもなく、究極のコンピューターが都市に超天文学的大損害を与えながらも、各種金融機関、工場、政府機関のそれぞれに置いてあるコンピューターに誤ったデータを与え、友人の商売が大成功するように裏から手を回したことであった。ただ単に、一人の学生を留年させないためだけにこれらのことは計画されたのだ。

　そしてもう一つは、究極のコンピューターと呼ばれるこのコンピューターの、百科事典数百冊分にも及ぶ操作手順書の最後のほうに小さく、

　「この究極のコンピューターは、人間の英知と執念を結集して、コンピューターの頂点を究めた文字通りコンピューターの一つの、いわゆる極を究めたスーパーコンピューターである・・・云々。

　しかしながら・・・地球の回転軸、つまり北極とか南極の位置でさえ、何万年かの間には、ずれることがあるという。つまり、極というものは常に同じ位置にあるとは限らないわけで・・・。

　要するに、この究極のコンピューターは確かに極は究めているのだが、どうもその極が少しずれてしまっているような気がしてならないのである。」
　と、済まなさそうに書いてあることだった。