夏休みも終わろうかという、ある昼下がり、多重力空間云々を教えていたＳ教授は、大学から遠く離れた避暑地の友人の別荘で終わりゆく夏を楽しんでいた。

　大都市で商売をしている友人から電話で、仕事が忙しくなり別荘に行けなくなったので、様子を見るついでに別荘を使わないかと相談を受けたからであった。遠くまで続く海岸線の見晴らせるベランダでまどろみながら、Ｓ教授はふと考えた。

　「そういえば夏季集中講義の採点をしていなかったが・・・。まあいいか、あわてて都会の雑踏に戻る必要もあるまい。ちゃんと出席した学生はみんな通してやるよう助手に電話でもしておくか。

　しかし友人は、相当景気が良いのだろうな。やはり商売は僕みたいな仕事と違って時の運だからな。毎年楽しみにしている別荘での生活を振るなんて。

　なんでも究極のコンピューターというのを買ったらそのコンピューターの弾き出した市場動向を予測したデータが大的中したとか言っていたが・・・。まあ、今度暇になったら詳しく聞いてみるとするか。」
　と、教授はまどろみの中へ戻っていった。