究極と呼ばれたコンピューター

 そのころ大学のキャンパスからかなり離れた都心部では大パニックが起こっていた。すべての交通機関は麻痺し、すべてのコンピューターはたこになっていた。原因は・・・

 そう、原因は一人の学生が尋ねた問題にあった。学生が操作したコンピューター端末は都市の中枢を司る大型コンピューターにつながっていた。そして学生の読み上げた問題は一箇所間違いがあったのだ。

 その間違いは単に一箇所+と-を間違えただけのささいなものだったが、簡単なはずの問題を超難解なものにしていた。少なくとも普通の学生の解けるレベルのものではなく、大学教授でも2~3日かかるというスーパーハイレベルな問題となってしまっていた。

 コンピューターは思った。いや、計算した。もとい、演算した。まあ、何でも良いが、このスーパー・ハイ・エクレセレントレベルな問題の解答を学生に与えてよいものか?社会的、人道的問題が発生するのではないか?ちょっと心配しすぎか?どうでもいいか?

 しかし気になる。コンピューターは一瞬のうちにこのことを判断し、即座に学生の身分調査を開始した。学生の声と発音のくせ、それからレンタルレコードの会員証から判明した。使用している学生は、この究極のコンピューターを使ってくれている教授の息子。事態は深刻だった。

 もしスーパー・ハイ・エクレセレント・ウルトラスペシャル・レベルな問題の正しい解答を教えたらこの学生が解いたのではないことがすぐ分かってしまう。この学生には絶対解けない。解けるはずがない。かと言って間違った解答を教えたらそのまま留年してしまう。このときコンピューターはすでに1秒以上この問題を考え続けていたが、いよいよ深入りしていった。

 たかだか1秒ではあるが、このような超大型コンピューターにとっては、人間のほぼ1日あたる時間だった。この1秒のために、大都市の各種交通機関は非常事態と判断し、簡単にストップした。
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