N博士の加速装置

 「再び文献を調査していたところ、ワープというのに行き当たった。」
 「あー、SF小説とか映画とかに出てくる、宇宙船が一気に遠くに行く航法ですね。」
 「左様。よく知っておるな。あれも亜空間を使うという点では前回の発明と同じだが、装置自体が移動するため安定すると思うのだ。自宅からラボまでワープすれば、一瞬で通勤ができるようになるじゃろ。」
 「そうですね。もしやプロトタイプができていたりするんですか・・・」
 エージェントには、ワープの実現による自分への高額のボーナスと、またプロトタイプのテストに付き合わされて死にかけるという光景が同時に浮かんだ。
 「君はせっかちだな。話を最後まで聞きたまえ。ワープを研究してみたのだが。理論的には実現可能なようだ・・・」
 「す、すごいじゃないですか。」
 「うむ。しかしな、2つ問題があってな。まずはワープの前に勢いをつける必要があるのじゃ。映画でも宇宙船が飛んでる状態からワープするじゃろ。逆に言えば、着陸している宇宙船がいきなりワープする映画は見たことないじゃろ。映画を作った人は、本能的に、ワープ前にはある程度スピードが出ている必要があるだろうと感じていたのだろうな。」

 「そのスピードって、どのくらいなんですか。」
 「最低でも時速100kmは欲しいところじゃ。わしのスポーツカーにワープ装置を組み込んだとして、100kmまでの加速に100m、もし失敗したときの停止用に100mで計200mの助走路が必要となる。しかも、家とラボの両方に必要だ。さらにそこに人が入ったり、別の車がいたりすると衝突してしまうので、専用路が必要となるのじゃ。」
 「専用路ですか。結構大変ですね。」
 エージェントは、ワープ航法が実現化できるなら、そのくらいの投資は何でもないと思いながらも、N博士の話に合わせてうなづいた。
 「そしてもう一つの問題だが、こちらの方がやっかいだ。それは、ワープの出口の場所が不安定ということだ。どうも数百mはずれる可能性がありそうなのじゃ。うまく助走路に現れることができれば良いが、出口がずれてラボや周囲の民家の前に出てしまうと大事故になってしまうからな。」
 「そんなにずれるんですね。」
 「左様。ここが解決できないのでワープはあきらめることにした・・・」
 エージェントには自分がもらうはずの札束が飛び去って行くのが見えたが、動揺は表に出さず、平静を装った。
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