N博士のドアツードア

 博士はエージェントを巨大な実験室に招き入れた。そこには、20mほどの間隔を空けて2つのピンク色のドアが設置されていた。
 「N博士、あのピンクの2つのドアが入口と出口なのですね。」
 「左様。あの2つのドアの間は亜空間でつないでおる。入口も出口も固定されているから、ドアが突然現れて誰かを驚かせることもない。では、早速実験してみよう。君も同席してくれるかな。」
 「は、はい、分かりました。」
 エージェントは過去のN博士の実験につきあって死にかけたことを思い出した。しかし、N博士はちゃんと何かの保険を掛けているだろうから、と自分を納得させた。

 N博士はためらいもなく、一方のピンクのドアを開けた。ドアの先には5mほどの乳白色の通路と、その先にピンク色のドアが見えていた。
 「先ほど言ったように、入口のドアと出口のドアの間に亜空間の通路を設けたのだ。いわゆる風除室だな。入口のドアを閉めてから出口のドアを開けることで気圧差の影響を最小限に留めることができるのだ。」
 「なるほど・・・」
 エージェントにはどれほどの効果があるのか分からなかったが適当に相槌をうった。
 「では、君も通路に入って入口側のドアを閉めてくれたまえ。」
 エージェントはN博士に言われるがまま入口側のドアを閉めた。
 「よし。では通路を移動して出口側のドアを開けてくれ。」
 エージェントは5mほどの通路を歩き、出口側のドアを開けた。しかし、そこは実験室ではなく、今通ってきた通路と同じような通路が見えていた。
 「N博士、また通路になっていますけど・・・」
 「な、なんだと。どういうことだ。これはおかしい・・・。出口側の装置が故障したのか・・・。」
 「これって、映画で見るような、出口のない地下鉄のホームみたいなものじゃないですか、電車が止まらないと二度と出られない空間では・・・」
 「うむむ・・・」
 N博士は黙り、エージェントは再び命の危機を悟った。これは出口のない亜空間に迷い込んでしまったに違いない。二度と元の世界に戻ることなく、死を迎えることになるのではないか・・・。

 「N博士・・・」
 「うむ、仕方ないな。一旦出口側のドアを閉めてくれたまえ。」
 「はい、何か策があるのですね・・・」
 エージェントは急いで出口側のドアを閉め、N博士に問いかけた。
 「いや、絶対に打開できるという解決策ではないのだが・・・」
 エージェントは落胆しつつもN博士に頼るしかなかった。
 「では、わしが入口のドアを開けるので、君も同じタイミングで出口のドアを開けてくれ。」
 「えっ、2つのドアは同時には開かないようになっているのではないですか。」
 「そんな構造にはしておらん。単に必ず一方を閉めておくようにしているだけだ。では、行くぞ。12の3、はい・・・」
 エージェントは何か納得がいかなかったが、N博士の掛け声に合わせて出口のドアを開けた。2つのドアの先には見慣れた実験室があった。
 「良かったぁ、戻れましたね。」
 「そのようじゃな。しかし、なぜうまくいかなかったのか、まだまだ改良の余地があるなぁ。」

 エージェントは、今回はN博士と二人で実験したので無事に戻れたが、もしN博士が一人で実験していたら、N博士は戻らぬ人となっていただろうことを思い、戦慄を覚えた。いや、むしろ、ここがN博士の天才たる所以なのだろうと感心しつつ、自らの無事を噛みしめていた。

おしまい
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