【異星人外交官】虚人

 「所長、あの黒い影もラグビーボールと一緒ですね。何もかも吸収しています。」
 「そうか。あの黒い影も何かは分からないが、このまま手をこまねいているわけにはいかないな。こちらもエージェントロボットを出してみよう。」
 「はい、所長。」
 部下がコンソールを操作し、黒い影の進行方向の10mほど先に、発着床からエージェントロボットをせり出させた。
 「さて、どうなることやら。」
 黒い影は、エージェントロボットが出現してもスピードを変えることなく進み続けた。
 「所長、まさか、異星人が反物資ということはないですよね。もし反物質だと大爆発を起こすことになりませんか。」
 「可能性は0ではないな。しかし、もしあれが異星人だとすれば、我々より数千年、いや数万年先の文明をもっているはずだから、そんな危険を冒して表敬訪問に来ることはないだろう。」
 「それもそうですね。」

 外交官たちが話しているうちに、黒い影はエージェントロボットに到達し、さらに重なってエージェントロボットが見えなくなったところで停止した。
 「完全に重なったな。センサーの出力はどうなっている。ロボットは生きているのか。」
 「所長、センサー、すべて沈黙しました。応答ありません。ロボットの生死も不明です。」
 「うーん、ますます分からないな。何が起こっているんだろうか。」

 黒い影が静止したまま数時間が経過した後、黒い影が後退を始め、エージェントロボットの姿が現れた。
 「所長、ようやく動きましたね。早速、ロボットの信号が復活しました。死んではいなかったようです。」
 「黒い影は引き返しつつあるが、何がしたかったんだろうか。」
 「所長、ロボットからメッセージを受信しました。」
 「なんだと。」

 それは異星人からの公用語の表敬文だった。彼らは、地球とは別の次元に存在しており、地球上では実体がないそうだった。したがって、物理的なコミュニケーションが取れず、仕方なくエージェントロボットを一旦彼らの世界に取り込み、銀河連邦から教えてもらった公用語のメッセージを組み込んで、こちらの世界に送り返したそうだった。

 異星人の技術により地球側の次元に表示させていた黒い影と黒いラグビーボールは再び合体し、突然消えた。彼らは実体がない異星人という意味で、後に虚人と呼ばれることになった。

おしまい
3/3ページ
スキ