程無くボーイは次の料理のコルネ・ドゥ・サーモン云々を運んできた。ボーイは一通りの説明をしたが、もはや甲斐の料理の知識では付いていけない領域へと移りつつあった。
　そして味は・・。うまい。甲斐はそれ以外の言葉を思いつかなかった。とろけるような、それでいて何か一度味わったような・・・。

　甲斐は前菜の皿を片づけているボーイに質問した。
　「失礼ですが、以前地上のどこかで働いていませんでしたか。」
　甲斐はボーイの動きが一瞬止まったように見えた。
　「えっ。」

　ボーイはこちらを振り向ことなく、再びワゴンの上を片づけ始めた。
　「いえ、はっきり覚えているわけではないのですけど、料理の味がどうも何処かのレストランか何かで味わったことがあるような気がして仕方ないのですよ。」

　ボーイはいつもの余裕を取り戻し、再び営業用の笑みを浮べて答えた。
　「そうですか。料理も完全を目指すとどうしても似てくると言いますからね。きっとあなた様がどこかのレストランで、当店と同様、最高の、そして頂点を極めた料理をお食べになったのでしょう。」
　「そんなものかな。」
　甲斐は今一つ納得できないものを感じたが、まあ料理がうまければ何でもよいかと、いつものいい加減さでそれ以上の追及はしないことにした。