牛
パッションNo.6掲載
牛
-修.
「ようこそ、ギャラクシー・サファリへ!本日はどうぞ心ゆくまでお楽しみください。」
あざやかな空色の服を着たガイドが、甲高い声で案内をつげていた。その姿は少し色あせたギャラクシー・サファリの中央ゲート看板と奇妙な対照を成していた。
「今日はわたくし、春日がガイドを務めさせていただきます。どうか列を離れないようお願いします。当ギャラクシー・サファリは各星域より集めました約2千種類の動物を・・・」
家族連れが多くを占める、いわゆる団体の中に一人混じって、生彩を欠く疲れた顔をした男がいた。その男中川は、このギャラクシー・サファリのある市へ単身赴任でやってきたサラリーマンである。
「どうせ休みの日はどこもこんなものだろうな・・・。」中川は、団体の発する大きなざわめきの中でつぶやいた。彼は休日、特にすることもなくここに至っていたのである。
「まあ、一回見ないとわからないしな。面白かったら今度ガキでも連れてくるか。」
「・・・皆様、右手に見えますのが、ミギワ星の八頭竜でございます。俗にヤマタノオロチと呼ばれており・・・」
ガイドのあまりにも高い声の案内が中川の耳に響いていた。しかし、オリの中で八本の首をそれぞれ別方向へ向けて揺らしながら、火を吐く八頭竜の姿は、それらの声を遠いものとするほど凄まじいものであった。中川は半ば口を開いて、ほとんど放心状態に陥っていた。
「あ、そこの子供さん、えさを与えるのはやめてください。八頭竜がお腹を壊しますから・・・。」
この声やっと我にかえった中川は口を閉じ直して思った。
(これはうちのガキも喜ぶぞ。今度連れて来よう。)
順路を進むにつれて、次々と現れる動物たちはどれも珍しく、目を見張るものばかりであり、中川も我を忘れて見物し続けた。
そろそろ昼も近づいた頃、団体は牧草の茂る野原の側まで来ていた。その時ガイドが牧草を食べている数頭の動物を指して、思い出したように案内を始めた。
「あー、皆様、右をご覧ください。あれがアークトゥルス星のパピトロン・セニック・モホロジーでございます。別名アークトゥルスの牛と呼ばれております。」
それは白黒まだらの大型草食獣で、まさにひとまわり大きな牛のように中川の目にも映った。中川はその牛のように見える動物を見て思った。
(あまりインパクトはないなぁ。草原の動物はどこの星でもおとなしいもののようだ。放し飼いにしているみたいだし・・・。それにしても牛にそっくりだなぁ。そろそろ腹も減ってきたし、昼はステーキでも食うか。)
それは中川だけでなく、団体客みんなの共通の思いでもあった。
その時突然、全員が身の危険を感じることになった。牛が草を引きちぎるやいなや、団体客の方へ駆け出してきたのであった。体長3m、体重1t近くもあろうかという大型獣である。
「キャーッ」何人もの女性が悲鳴を発し、団体客は出口へ向かって我先に逃げ出し始めた。むろん中川も力の限り走った。いつ噛みつかれるか、踏みつぶされるかと皆必死だった。
そして、全員、なんとか牛を振り切り、無事に出口にたどりついた。中川もようやく出口にたどりつき、ほっと一息ついた。
「とんでもない動物園だ。ガキを連れてくる前に来てみてよかった。」
その頃、牧草の茂る野原では
「せっかくお昼ご飯をもっていってあげたのに、逃げてしまうなんて・・・。地球人はわからないなぁ。絶対お腹が空いているように見えたんだけどなぁ。」
観光客のアークトゥルス人たちは「そうだ」「そうだ」とうなづきあいながら、口忙しく草を食べ続けた。
牛
-修.
「ようこそ、ギャラクシー・サファリへ!本日はどうぞ心ゆくまでお楽しみください。」
あざやかな空色の服を着たガイドが、甲高い声で案内をつげていた。その姿は少し色あせたギャラクシー・サファリの中央ゲート看板と奇妙な対照を成していた。
「今日はわたくし、春日がガイドを務めさせていただきます。どうか列を離れないようお願いします。当ギャラクシー・サファリは各星域より集めました約2千種類の動物を・・・」
家族連れが多くを占める、いわゆる団体の中に一人混じって、生彩を欠く疲れた顔をした男がいた。その男中川は、このギャラクシー・サファリのある市へ単身赴任でやってきたサラリーマンである。
「どうせ休みの日はどこもこんなものだろうな・・・。」中川は、団体の発する大きなざわめきの中でつぶやいた。彼は休日、特にすることもなくここに至っていたのである。
「まあ、一回見ないとわからないしな。面白かったら今度ガキでも連れてくるか。」
「・・・皆様、右手に見えますのが、ミギワ星の八頭竜でございます。俗にヤマタノオロチと呼ばれており・・・」
ガイドのあまりにも高い声の案内が中川の耳に響いていた。しかし、オリの中で八本の首をそれぞれ別方向へ向けて揺らしながら、火を吐く八頭竜の姿は、それらの声を遠いものとするほど凄まじいものであった。中川は半ば口を開いて、ほとんど放心状態に陥っていた。
「あ、そこの子供さん、えさを与えるのはやめてください。八頭竜がお腹を壊しますから・・・。」
この声やっと我にかえった中川は口を閉じ直して思った。
(これはうちのガキも喜ぶぞ。今度連れて来よう。)
順路を進むにつれて、次々と現れる動物たちはどれも珍しく、目を見張るものばかりであり、中川も我を忘れて見物し続けた。
そろそろ昼も近づいた頃、団体は牧草の茂る野原の側まで来ていた。その時ガイドが牧草を食べている数頭の動物を指して、思い出したように案内を始めた。
「あー、皆様、右をご覧ください。あれがアークトゥルス星のパピトロン・セニック・モホロジーでございます。別名アークトゥルスの牛と呼ばれております。」
それは白黒まだらの大型草食獣で、まさにひとまわり大きな牛のように中川の目にも映った。中川はその牛のように見える動物を見て思った。
(あまりインパクトはないなぁ。草原の動物はどこの星でもおとなしいもののようだ。放し飼いにしているみたいだし・・・。それにしても牛にそっくりだなぁ。そろそろ腹も減ってきたし、昼はステーキでも食うか。)
それは中川だけでなく、団体客みんなの共通の思いでもあった。
その時突然、全員が身の危険を感じることになった。牛が草を引きちぎるやいなや、団体客の方へ駆け出してきたのであった。体長3m、体重1t近くもあろうかという大型獣である。
「キャーッ」何人もの女性が悲鳴を発し、団体客は出口へ向かって我先に逃げ出し始めた。むろん中川も力の限り走った。いつ噛みつかれるか、踏みつぶされるかと皆必死だった。
そして、全員、なんとか牛を振り切り、無事に出口にたどりついた。中川もようやく出口にたどりつき、ほっと一息ついた。
「とんでもない動物園だ。ガキを連れてくる前に来てみてよかった。」
その頃、牧草の茂る野原では
「せっかくお昼ご飯をもっていってあげたのに、逃げてしまうなんて・・・。地球人はわからないなぁ。絶対お腹が空いているように見えたんだけどなぁ。」
観光客のアークトゥルス人たちは「そうだ」「そうだ」とうなづきあいながら、口忙しく草を食べ続けた。
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