量子力学的むむ

 そして神経を使う回避行動がだんだん少なくなり、ようやくアステロイドベルトを抜けだし、最大速度でエウロパへ近づいていった。
 「エウロパ管制局、こちらミレニアムイーグル号、識別番号MC2568KV。エウロパへの着陸を要請する。」
 「こちらエウロパ管制局、ミレニアムイーグル号、識別番号を確認した。30分後に着陸を許可する。急に識別信号が現れたが、アステロイドベルトを抜けてきたのか。」
 「エウロパ管制局、ありがとう。そうだ、西暦三千年祭に生の魚を間に合わせるため、我々はアステロイドベルトを抜けてきたんだ。念のため、正確な日付と時間を教えてくれないか。」
 船長は、時間と空間が捩じれているという老人の言葉が気になっており、念のため確認することにしたのだ。

 「ミレニアムイーグル号、今、12月31日16時15分32秒だ。」
 「良かった。船内の時計とも一致している。途中で救助に立ち寄った船の老人に脅されてたので確認させてもらった。」
 「そうか。西暦三千年祭にぎりぎり間に合ったな。あと数時間で西暦三千年祭も終わってしまうからな。」
 「むむ。」

 船長は、エウロパ管制官の言葉が理解できなかった。いや、まだ西暦三千年祭は始まっていないだろう。
 「どういうことだ。」
 「どうもこうもない。西暦三千年祭は西暦3000年の1年間だけのお祭りだからな。もうすぐ3001年になるから終わるのが当然だろう。」
 「もうすぐ3001年になる?今、西暦何年だ。」
 「3000年に決まっているじゃないか。何を言っているんだ。今、そちらの航宙記録を確認させてもらったが、1年ほど前にフォボスを出航してから記録がないな。どこかの歓楽惑星で羽でも伸ばしていたのか、ははは。」

 エウロパの管制官は楽しそうに話していたが、船長とトムは絶句した。日にちも時刻も一致しているのに、1年余計に経っている。
 「むむ、まずいな・・・・」
 老人の話は現実のものとなってしまった。船長は運んできた魚をどうさばくか途方に暮れていた。

おしまい
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