家政婦 No. META 防犯オプション

 俺の心配をよそに、ミータから日頃の口調で無線通信が入った。
 「ご主人様、鎮圧完了しましたので玄関へお越しください。」
 鎮圧って、やはり戦場みたいになったのだろうか。血まみれの死体とかあっても、あまり見たくないが・・・。俺はエスケープボックスから出て玄関へ向かった。

 玄関では少しを開けた扉から、ミータが手招きした。
 「こちらです。」
 俺が玄関を開けると、死体や血の跡はなく、駐車スペースに外国人らしき5人が頭の後ろに手を組んで座っていた。
 「ミータが一人でやったのか。」
 「いえいえ、応援を呼びましたので・・・。」

 ミータが指さす先には、門扉の外の道路に1体、駐車スペースの奥に1体、身長2mはあろうかと思われる、ガンメタルのボディのロボットが仁王立ちしていた。割と華奢なミータと違い、全体的にごつごつしており、頭の部分もディスプレイではなく、カメラなのか、兵器なのか、いろいろな装備が付いている。これは軍用なのではなかろうかと思われた。

 「いつの間に・・・。」
 ドアホンが鳴ってから、まだ2、3分しか経っていない。窃盗団を待ち伏せしていたのだろうか。ミータが俺の疑問を察したのか説明を始めた。
 「ドアホンの画像が弊社のデータベースに記録された窃盗団の一人に似ておりましたので、すぐに支社に応援を要請いたしました。支社は、2体の警護ロボットを搭載した輸送ドローンをカタパルトで射出しました。輸送ドローンは最終速度マッハ2でこちらに向かい、上空で警護用ロボットを切り離し、警護用ロボットが道路と庭に着陸し、窃盗団に投降を促したという次第です。この2台を見て観念したのか、窃盗団は素直に武装解除し、投降してくれました。」
 確かに、この巨大なロボットを目の前にして戦おうと考える奴は相当の命知らずだろう。重火器でも持っていれば別だが、ナイフや棒ではかすり傷も付きそうにない。

 「何か大きな音がしたが、戦闘になったのではないのか。」
 「はい、私が玄関にいた一人を後ろに突き飛ばしたくらいですね。その際、装甲に少し擦り傷を入れてしまいました。」
 ミータは装甲に傷を付けたことを悔やんでいるように見えた。本業が家政婦なので、日頃、家具や食器に傷を付けないように注意しているからだろうか。

 「音につきましては、爆発音は輸送ドローンのソニックブームで、その後の断続的な音は警護用ロボットの着陸時のパルスジェットエンジンの音です。ご近所さんにはご迷惑をお掛けしましたが、窃盗団を捕まえて地域の安全に貢献しましたので勘弁してもらいましょう。」
 「あー、なんかすごいことになったな。」
 「警察にも通報済ですので、もうすぐ逮捕に来ると思います。今回の応援は単独依頼の場合、数百万円掛かりますが、ご主人様は契約済ですので追加の費用は発生しません。無事窃盗団を捕まられましたので弊社の宣伝にもなります。ご契約ありがとうございました。弊社に成り代わり、お礼申し上げます。」

 ミータの提案は今回も的を射ていた。俺は、何かうまく利用されたような釈然としない感覚も残ったが、今回の件を宣伝に使う代わりに契約代金を値引きしてくれるらしく、まあお互いウィンウィンで良かったのではないかと思うことにした。

おしまい
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