N博士のVTOL
「仕方ない。エンジンを掛けて、車から電気を供給するか。」
「え、そんなことができるなら、最初から車からの電気で飛べばよかったんでは・・・。」
「いや、それではこの発明の真価が判らないだろう・・・。」
いやいや命の方が大事だろう、とエージェントは言いかけたが、またまた思いとどまった。N博士は自分の発明に絶対の自信を持っているので、それが失敗したときの手を打っておくなんて考えられなかったのだろう。
N博士はキーをひねってエンジンを掛けようとした。
キュルキュル、キュルキュル・・・、車の前方から嫌な音がした。
「もしかして、エンジンが掛からないのではないですか・・・。」
「うーん、コンビニしか行ってなかったから、車のバッテリーが上がってしまったようじゃ。」
エージェントは言葉を失った。
「うーむ、この感じだと時速120km前後で着地するな。今、前方が地上を向いているので、うまくエアバックが働くだろう。後ろのスポイラーが姿勢制御に効いているのかもしれんな。」
「エアバックに頼るしかないんですね・・・。」
エージェントは衝突安全試験で正面衝突する自動車を思い出しながら、これは死ぬなと再び思い始めていた。
「高度200、190、180・・・。」
N博士は冷静にディスプレイに表示される高度を読んでいた。エアバックに絶対の自信を持っているのか、それとも恐怖に鈍感なのか。エージェントは、N博士は変わり者なのでたぶん後者だろうと思いつつ、前方に迫ってくる地上を眺めて手を合わせて祈っていた。これでN博士も最後かもしれない。重力制御は永遠に失われるだろう。
その時、座席の後ろの装置から大きな音がして、エージェントは前方に体が動き、4点式シートベルトに押し付けられる感覚があった。
「N博士、何がすごい音がしましたけど・・・・。」
ディスプレイには対地速度がかなり落ちて、時速40kmと表示されていた。
「やはりパラシュートを付けておいてよかったのう。知り合いの航空機メーカーに頼んでおいたのだ。」
直後、真っ赤なスポーツカーは車体前方を大きくつぶして地上に着陸した。N博士と俺はエアバックのおかげでけがをすることもなく、無事に地上に降り立つことができた。
N博士は自分の発明に絶対の自信をもっているが、さすがに自分の命を懸ける自信まではなかったようだ。エージェントは、今回の実験結果を投資家に成功と説明するのか、命を落としかけたと正直に言うのか悩みつつ帰路に着いた。
おしまい
「え、そんなことができるなら、最初から車からの電気で飛べばよかったんでは・・・。」
「いや、それではこの発明の真価が判らないだろう・・・。」
いやいや命の方が大事だろう、とエージェントは言いかけたが、またまた思いとどまった。N博士は自分の発明に絶対の自信を持っているので、それが失敗したときの手を打っておくなんて考えられなかったのだろう。
N博士はキーをひねってエンジンを掛けようとした。
キュルキュル、キュルキュル・・・、車の前方から嫌な音がした。
「もしかして、エンジンが掛からないのではないですか・・・。」
「うーん、コンビニしか行ってなかったから、車のバッテリーが上がってしまったようじゃ。」
エージェントは言葉を失った。
「うーむ、この感じだと時速120km前後で着地するな。今、前方が地上を向いているので、うまくエアバックが働くだろう。後ろのスポイラーが姿勢制御に効いているのかもしれんな。」
「エアバックに頼るしかないんですね・・・。」
エージェントは衝突安全試験で正面衝突する自動車を思い出しながら、これは死ぬなと再び思い始めていた。
「高度200、190、180・・・。」
N博士は冷静にディスプレイに表示される高度を読んでいた。エアバックに絶対の自信を持っているのか、それとも恐怖に鈍感なのか。エージェントは、N博士は変わり者なのでたぶん後者だろうと思いつつ、前方に迫ってくる地上を眺めて手を合わせて祈っていた。これでN博士も最後かもしれない。重力制御は永遠に失われるだろう。
その時、座席の後ろの装置から大きな音がして、エージェントは前方に体が動き、4点式シートベルトに押し付けられる感覚があった。
「N博士、何がすごい音がしましたけど・・・・。」
ディスプレイには対地速度がかなり落ちて、時速40kmと表示されていた。
「やはりパラシュートを付けておいてよかったのう。知り合いの航空機メーカーに頼んでおいたのだ。」
直後、真っ赤なスポーツカーは車体前方を大きくつぶして地上に着陸した。N博士と俺はエアバックのおかげでけがをすることもなく、無事に地上に降り立つことができた。
N博士は自分の発明に絶対の自信をもっているが、さすがに自分の命を懸ける自信まではなかったようだ。エージェントは、今回の実験結果を投資家に成功と説明するのか、命を落としかけたと正直に言うのか悩みつつ帰路に着いた。
おしまい
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