パンテーラ

 第10コーナーを曲がった時、前にRX-7がついた。
「あいつは他のところの奴だが、知り合いさ。」
 男はまた黙った。手はずは整っているらしい。にわかにRX-7が加速した。続いてピアッツァも加速していく。突然後部座席から吠えるようなエンジン音が始まった。後ろを見るとそこにはうまくカモフラージュされたエンジンルームがあった。ツインエンジンか。コクピットはものすごくうるさい。男がヘッドホンを付けるように手振りした。話しかけてくる。

「お察しの通りツインエンジンさ。この車は言ってみりゃ走るコンピュータでね。ま、がさつな力押しが得意なんだが、前のは違う。シンプル・イズ・ベストの発想でね、速いぜ。あと10秒だ。あいつ増槽を捨てるぜ。」
 RX-7の屋根と後ろの窓がふっとんだ。
「すごいな・・・。」他に言葉がない。

「3、2、1、・・・」
 突然RX-7の前に奴が現れた。
「いったいどこから出てきたんだ。」
 俺は思わず叫んだ。男が振り向きもせず答える。
「わからん。しかし奴が現れる時間だけはわかる。ちょっと黙ってな。舌をかむぜ。」
 運転席を見ると、男はハンドルにもアクセルにもブレーキにも触っていない。

「貴様、気でも狂ったか。」
「あわてるな。運転は車に任せときゃいい。」
 男はどこからかビデオカメラを取り出し、パンテーラを追っている。車は恐るべきスピードを出していた。カーブを完ぺきといえるグリップ走行でクリアしていく。サイドジェットでもついているのだろうか。しかし、それ以上に前の2台は速い。性能はほとんど互角に近い。ただ、追う立場であるRX-7がやや不利といえた。

「待ち伏せしときゃいいだろうが!」
 俺は声の限りに叫んだ。男が叫び返す。
「待ち伏せしたら出て来ねえんだよ。」
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