第1章 美少女着ぐるみ

 「大丈夫?」
 気が付くと、マスクの視界の悪いのぞき穴から、川島の心配そうな顔が見えていた。
 「一瞬、反応がなかったけど、もしかして臭かった。ちゃんと消臭してたんだけどね。ストラップ締めるから、あご上げて。」
 「あ、すいません、大丈夫。臭くないです。」
 留美は答えながらあごを上げた。

 先ほどの光景は一体何だったのだろうか。着ぐるみは間違いなく、今着ているものだった。だが、この部屋には川島とふたりっきりで男性などいない。いわゆる白昼夢というやつだろうか。川島は、一瞬と言っていたので、何かのドラマの記憶とごちゃごちゃになって幻想が湧いたのかもしれない。それにしては鮮烈な幻想だった。あのいやらしいおじさんは誰だろう。何かえらそうにしていたが・・・。

 ただの社員の留美にとっては、グループ企業は大きすぎて、どんな部門があるのか、何をやっているのかさえ、すべて把握することは難しかった。ましてや、数多ある部門のえらいさんの顔は知ろうはずもない。
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