第1章 美少女着ぐるみ

 そして、わくわくして眠れなかった週末が明けた月曜日の昼下がり、メモに書かれた会場に着いて案内されたのがこの控室だった。入り口には「GBプランニング 様」という張り紙があった。課長から渡されたメモにはグローバルビジネスプランニング課と書いてあったので、間違いはなさそうだった。今日はいったい何のプレゼンがあるのだろうか、留美は初のプロジェクトの仕事に胸を躍らせて部屋に入っていった。

 そして今、この着ぐるみが広げられた部屋の中で一人固まっているのだった。

 ドアをノックする音で、留美の堂々巡りは中断した。
 「やっぱり一人じゃ無理よねー。こんなの着たことないでしょ、普通。」
 返事もしていないのに入ってきたのは、先ほどの女性だった。
 「自己紹介が先だったわね。私は同じ課の川島です。課の経理とか総務全般をやってるの。といっても、課長入れて5人しかいない課なんで、何でも屋かしら。あなた6人目ね。えーっと、そこのTシャツとスパッツに着替えてから、タイツ着て。背中のチャックは上げてあげるから・・・」

 川島は、留美が混乱していることには気が付かないらしく、まくしたてた。留美はかろうじて質問を返した。
 「今日は何かプレゼンがあるって聞いたんですけど、何のプレゼンなんですか。この衣装との関係が分らないんですけど。」
 「あー、今日は、なんか、新しい乳酸菌で作ったヨーグルトのプレゼンがあるって課長言ってたなー。この娘はそのイメージキャラクターなのよ。アルプスの少女って感じでしょ。いつも思うけど、なんかのパクリよね。」
 「いや、あのー。で、なんで私がこれ着ることになっているんですか。」
 「あら、抵抗ある。顔見えないし、プレゼンターの後ろで商品の入ったかごを持って立っとくだけだから、簡単よ。ちょっとマスクが息苦しいかもしれないけどね。まさか、閉所恐怖症じゃないよね。」
 「そんなことないですけど・・・」

 で、なぜ留美が着ることになったのか、もう一度聞くかどうかためらっていたら、川島が続けた。
 「こういうのね。身長と、体形が重要なのよ。ほら、私みたいにでかいと圧迫感あるでしょ。あなたみたいに、小柄でスリムなじゃないとだめなのよね。前任者が交通事故にあってね、足折っちゃって、欠員ができたところで、ちょうどあなたがうちを希望していたから、渡りに船だったってわけ。」

 あー、それで、あっさり決まったのかと、留美はスーツを脱ぎ、スパッツとTシャツに着替えながら、少し納得した。いやいや、待て!身長と体形?そんな理由なのか。学歴とか、業務実績とか、勤務態度とかではないのか。そんなので転勤になるなんて・・・。
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