第7章 着ぐるみパラダイスへ

 「留美は前の職場環境がむちゃくちゃ嫌って言っていたでしょ。セクハラもなかった?」
 「あったわね。だいぶ慣れてきていたけどね。いちいち気にしていたらやってられないから・・」
 「今の職場に移ったとき、またセクハラ職場じゃないかって、気になってなかった?だから、最初の美少女着ぐるみのときはセクハラの記憶が引っ張り出されたんじゃないかな。」

 そうかもしれない、と留美は思い出した。当時は、本社企画部に移ると思っていたとは言え、前の職場以外の経験があるわけではなく、もしかしたら前の職場と同じような昭和の環境ではないかという一抹の不安を抱いていたことは確かだ。

 「そのあとは、黒岩さんと初めて出会って黒岩さんが気になりだしたでしょ。だから、戦隊ヒロインとか、鳥の怪獣では黒岩さんとの記憶が引っ張り出されたと考えると自然でしょ。」
 留美は絶句した。ということは、これは真理が自分に見せた幻想ということではなく、自分自身の能力なのか・・・。
 「留美、判った?もう一回繰り返そうか。」
 かおりは、少し呆然としている留美を見て早くしゃべりすぎたと思ったようだ。

 「いや、大丈夫。要は、私が気になっていることを、着ぐるみの記憶から引っ張り出したってことなのね。」
 「ご名答。ものすごい能力って言えばそうなんだけど・・・。」
 「ん、だけど・・何?」
 かおりが口ごもったので留美は問いかけた。

 「ただ、着ぐるみを着ないと発動しない能力と考えると、あんまり発揮できる機会はないわね。普通、着ぐるみ着る機会ってないでしょ。私も着たことないし。今の職場でもだいたい同じ着ぐるみを着るんでしょ。まあ、今日は黒岩さんの持っている着ぐるみが着られそうだから、何か気になることが見られるかもね。」

 かおりはいつも冷静だ。かおりが言う通り、残留思念を感じ取れるなんてすごい超能力に違いない。本来なら小躍りして喜ぶべきところだろう。しかし、すごい能力とは言え、発動するシチュエーションが着ぐるみを着た一瞬だけだし、留美が気になっていることしか見られないとすると、どんな使い道があるのだろうか。かおりから指摘されたせいもあるが、留美にもこの能力が役に立つのか疑問だけが残った。

 かおりは、留美の能力がすごいと褒めていた割には、一通り説明が終わったため満足したのか、あとは黒岩の出演した番組がどうだったとか、どんな着ぐるみがあるかとかもっぱら黒岩の話をしながら黒岩の家を目指した。
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