第4章 怪獣

 先ほどの佳代と呼ばれた女性がどこからか持ってきた次の着ぐるみは宇宙人の着ぐるみだった。全体にすっきりしたデザインで、体の線が出るタイプだ。色は明るめのシルバーで、頭の部分は黄色の反射板のような大きな丸い目がひとつで、頭が縦に長い。目の部分が中からは見るようになっているようだ。

 「これは、なんとも言えないデザインね。」
 かおりが覗き込む。
 「留美はちっちゃいけど、スタイルいいから結構さまになるのかー」
 かおりは着ぐるみを引っ張ったり、押さえたりしながら興味津々の様子である。
 「ん、じゃ着てみようか。」

 さっきまで付けていたハーネスは外してもらっており、汗びっしょりとなったTシャツとスパッツも着替えて、すっきりした留美は着ぐるみを着始めた。宇宙人の着ぐるみは体の線をわざと出すためか、少し小さめのサイズになっていて、生地を引っ張りながら着る必要があり、さっきの鳥の怪獣より着替えに手間取った。そしてほどなく頭も入れ終わり、後ろのチャックをかおりに閉めてもらった。

 「何か見えた。」
 と、かおりが尋ねる。
 「いやー、なんにも。」
 留美には、大きな一つ目の内側からかおりの黄色がかった顔が見えていているだけで、幻想は見えなかった。
 「うーん、またまた謎だねー」
 着ぐるみ越しなので、声も聞こえにくく、表情もよく見えないが、またかおりは熟考に入ったようだった。

 「着ぐるみどうですか。前見えますか。きつくないですかね。」
 着替え終わったのを見計らって、先ほどの女性が状況を訪ねてきた。
 「あー、よく見えます。大きさもぴったりです。動きにくさもないですね。」
 留美は、腕を回したり、屈伸をしたりして着心地を確かめていた。着ぐるみはひとつひとつ手作りのため、接着や縫製が弱いところがあったりすると、アクション中に外れたり、穴が開いたりして、撮影を止めてしまうことになるので、耐久性の確認は重要だった。だが、もともと体にぴったりしているところを見ると、ベースはウェットスーツのようなので、あまり心配することはなさそうだ。

 「結構丈夫にできているようですね。」
 留美は相変らず黄色い視界で、自分の声がうるさいと思いつつ、感想を言った。
 「そうですか。じゃ、大丈夫そうなので、もう脱いでもらっていいですよ。」
 「わかりました。」

 かおりは留美の背中のチャックを下ろしつつつぶやいた。
 「なぜ、何も見えないんだろー。撮影が終わって留美の緊張が緩んだからか。何かミスったら、黒岩に助けて欲しいっていう留美の願望か?うーん、一日一回限定なのか。そもそもなぜ黒岩なのか。」

 かおりは考えが口に出ていることも気づいていないらしい。
 「かおり、かおりってば。」
 「あー、ごめん、ごめん。分からないわねー。」
 確かに分からない。そもそも幻想を見るなんて、人生で何回もあるものではないだろう。
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