第4章 怪獣
場所はスタジオのようだが、この同じスタジオなのかどうかは分からない。今着ている着ぐるみがミニュチュアの街並みの中に立って羽をはばたかせている。吊るされてはいない。時折、羽を止めて口を開けるのは、光線か何かを吐き出しているところだろうか。しばらくその光景が続いた後、カットが掛かったようで、何人かが着ぐるみに近づき、背中のチャックを下ろしてあげていた、中からは小柄な女性らしき姿が出てきたが、顔は着ぐるみの頭に隠れて見えなかった。そして着ぐるみから出るのをサポートしているのは、あの黒岩だった。
「お疲れ様ー、ちょっと一息着いたらすぐ画像チェックね。」
「はぁー、分かりましたー。OKだといいけど・・」
「大丈夫だと思うよ。」
そして女性は黒岩と共にどこかに去っていった。
「留美、留美、大丈夫。またなんか見た。固まってたけど・・・」
気付くとかおりが体を支えながら、のぞき穴近くでささやいた。
「見えた、後で話す。」
だいぶこのシチュエーションにも慣れてきた留美は周りは気付かれないように小声で答えた。
「木隅さん、大丈夫ですか。なんかふらっとしていましたけど。撮影無理なら、脱がせましょうか。」
そばにいた監督の滝川も何事かと問いかけてきたが、かおりがすかさず代わりに答えてくれた。
「いえいえ、問題ありません。いつものことなんで。」
「そうなんですか、ならいいですけど。」
滝川は、本当に大丈夫かと心配げではあったが、いつものことなら良いのだろうと納得して、もとの位置に戻っていった。
撮影は、予定通り留美が着ぐるみごと吊るされ、ゆっくり羽ばきながら、下界を眺めるというカットだった。時々、羽ばたきをやめて、首を下に向ける演技が求められた。後で光線の画像と合成されるらしい。
留美は小一時間、吊るされたり、下ろされたりしながら、腕を上下させる必要があり、ハーネスは食い込むは、腕は萎えるはで、結構な重労働であった。かおりに手伝ってもらいながら、ようやく着ぐるみを脱ぐと、留美は汗びっしょりになっていた。
すかさずかおりが
「はい、お疲れ様。なかなか堂に入ってたよ。でも、着ぐるみもかなり大変そうね。汗、びっしょりじゃない。」
「まあ、慣れたけどね。戦隊ものだと、ジャージ生地で風通しがいいからいいんだけど、怪獣は風通さないから蒸れるのよねー。」
「それはそうと、今度は何が見えた。」
「あー、今回も黒岩さんが出てきた。それと謎の女性が話してた。やっぱり、私の願望なのかな・・・」
最初のおじさんとの関係は不明だが、黒岩のことが気になっていることは関係があるかもしれない。しかも、この後、お茶に誘われている。留美の黒岩への思いがこのような幻想を見せているのだろうか。留美は案外これが正解なのかもしれないと考え始めていた。今まで、ほんの数回しか話していないが、黒岩の気配りとか、やさしさは留美にとっては今までにない心に残る出来事だった。
一方のかおりは熟考体制に入ったようで、目がうつろになっていた。
「お疲れ様ー、ちょっと一息着いたらすぐ画像チェックね。」
「はぁー、分かりましたー。OKだといいけど・・」
「大丈夫だと思うよ。」
そして女性は黒岩と共にどこかに去っていった。
「留美、留美、大丈夫。またなんか見た。固まってたけど・・・」
気付くとかおりが体を支えながら、のぞき穴近くでささやいた。
「見えた、後で話す。」
だいぶこのシチュエーションにも慣れてきた留美は周りは気付かれないように小声で答えた。
「木隅さん、大丈夫ですか。なんかふらっとしていましたけど。撮影無理なら、脱がせましょうか。」
そばにいた監督の滝川も何事かと問いかけてきたが、かおりがすかさず代わりに答えてくれた。
「いえいえ、問題ありません。いつものことなんで。」
「そうなんですか、ならいいですけど。」
滝川は、本当に大丈夫かと心配げではあったが、いつものことなら良いのだろうと納得して、もとの位置に戻っていった。
撮影は、予定通り留美が着ぐるみごと吊るされ、ゆっくり羽ばきながら、下界を眺めるというカットだった。時々、羽ばたきをやめて、首を下に向ける演技が求められた。後で光線の画像と合成されるらしい。
留美は小一時間、吊るされたり、下ろされたりしながら、腕を上下させる必要があり、ハーネスは食い込むは、腕は萎えるはで、結構な重労働であった。かおりに手伝ってもらいながら、ようやく着ぐるみを脱ぐと、留美は汗びっしょりになっていた。
すかさずかおりが
「はい、お疲れ様。なかなか堂に入ってたよ。でも、着ぐるみもかなり大変そうね。汗、びっしょりじゃない。」
「まあ、慣れたけどね。戦隊ものだと、ジャージ生地で風通しがいいからいいんだけど、怪獣は風通さないから蒸れるのよねー。」
「それはそうと、今度は何が見えた。」
「あー、今回も黒岩さんが出てきた。それと謎の女性が話してた。やっぱり、私の願望なのかな・・・」
最初のおじさんとの関係は不明だが、黒岩のことが気になっていることは関係があるかもしれない。しかも、この後、お茶に誘われている。留美の黒岩への思いがこのような幻想を見せているのだろうか。留美は案外これが正解なのかもしれないと考え始めていた。今まで、ほんの数回しか話していないが、黒岩の気配りとか、やさしさは留美にとっては今までにない心に残る出来事だった。
一方のかおりは熟考体制に入ったようで、目がうつろになっていた。