第4章 怪獣
翌日、留美とかおりが訪れたのは、本社から電車で数駅の郊外にある撮影スタジオだった。スタジオと言っても、外観は大きめの倉庫にしか見えない。入り口に掛かっている縦の看板で何かのスタジオとわかる程度である。
今回はかおりが会社を休んで一緒についてきている。今日は相変わらずの短目のスカートに黒いコートと大人系のコーデだ。ビジネスカジュアルな留美と二人並ぶと、いつもながらファッションの方向性が全く違う。
「かおり、海外営業のエースなのに、よく会社休めるね。」
「留美ー、自分で言うのもなんだけど、私、だてにエースじゃないのよ。何より、こんな機会見逃すはずがないじゃない。クライアントには、私のライフワークにかかわるプライベートの最優先事項があるから、ビジネスは全部来週まで止めといてって言っといた。」
何かよく分からない説明だが、要は仕事はどうにでもできるらしい。周りからも営業成績トップと認められているようなので、自分で言う通り確かに凄腕なのだろう。こうなると、男性だけでなく、同僚の女性にも引かれそうだ。留美はかおりと同じ職場だと友達になれなかったかもしれないと思った。
留美は入り口の使い古されたインターホンで名乗り、中に入れてもらった。
少し歩いたところのドアを開くと広い空間に出た。前の戦隊ヒーローの事務所の道場のようなところとは違い、中もだだっ広い倉庫そのものだった。その半分ほどにミニュチュアの街並みが作られている。その街並みの周りには大きなビデオカメラや照明や何かの道具が無造作に置かれており、天井にも照明やらクレーンやら、はしごのようなものもあり、全体的は雑然としている。そのあちらこちらにまばらに人がいて何か作業を行っているようだった。
その一人が留美を見つけて、駆け寄ってきた。
「こんにちは、監督の滝川です。木隅さんとお友達の・・・・。」
「財前かおりです。」
「あー、財前さんね。豊田課長から聞いていたけど、美人だねー。いや、初対面の人に失礼だったね。木隅さん、早速撮影に入るんで着替えてもらっていいかな。」
「あっちに控え室があるので・・・」
監督の滝川は、今入って来たドアとは別のドアを指さした。
「佳代さん、ちょっと着替え手伝ってあげてー、あー、先にハーネスつけといてね。」
遠くから「はい、監督ぅー、分かりましたぁー」と、ジャージ姿の女性が近づいてきた。やはりどこもジャージだ。
「あのー、今回どんな着ぐるみを着るんでしょうか。」
留美はだいぶ着ぐるみには慣れてきていたが、一応何になるのか知りたいと思い、佳代と呼ばれた女性に尋ねた。
「鳥みたいな怪獣ですね。恐竜で言えばプテラノドンみたいな。吊るすのが重いんで女性専用にしています。あと、スタジオとの縮尺で少し小さめのほうがアングルが稼げるので・・・。あ、高所恐怖症とかないですよね。吊るすって言っても3、4mですけどね。先にハーネスつけて、着ぐるみ着て、ハーネスにワイヤーつなぎますので」
「いやー、楽しそうね。空、飛ぶんだー、私もやりたーい。」
吊るすぅー?、留美が聞き返す前に、かおりが食いついてきた。やりたーいって、いつもの冷静なかおりらしくなく、テンションが上がっているようだ。
「あ、着ぐるみ、小さいんですよ。そちらの方は身長があるんでちょっと入らないですね。あと、大きい方は体重も少し増えるのでロープワークが大変になるので・・・」
佳代と呼ばれた女性は申し訳なさそうに答えた。
「えー、残念・・・」
かおりは本当に残念そうにつぶやいた。
「あー、そうでした。吊るして撮影した後に、新しいブツが上がってきているんで、そっちの試着もしてもらいます。前がちゃんと見えるかとか、動きやすいかどうかとかのテストです。撮影はないです。」
「そっちも小さいの?」
かおりが速攻で尋ねた。
「小さいですね。同じスーツアクトレスさん用なんで。」
あなたは見学の身だろう、留美は言葉を飲み込んだ。
今回はかおりが会社を休んで一緒についてきている。今日は相変わらずの短目のスカートに黒いコートと大人系のコーデだ。ビジネスカジュアルな留美と二人並ぶと、いつもながらファッションの方向性が全く違う。
「かおり、海外営業のエースなのに、よく会社休めるね。」
「留美ー、自分で言うのもなんだけど、私、だてにエースじゃないのよ。何より、こんな機会見逃すはずがないじゃない。クライアントには、私のライフワークにかかわるプライベートの最優先事項があるから、ビジネスは全部来週まで止めといてって言っといた。」
何かよく分からない説明だが、要は仕事はどうにでもできるらしい。周りからも営業成績トップと認められているようなので、自分で言う通り確かに凄腕なのだろう。こうなると、男性だけでなく、同僚の女性にも引かれそうだ。留美はかおりと同じ職場だと友達になれなかったかもしれないと思った。
留美は入り口の使い古されたインターホンで名乗り、中に入れてもらった。
少し歩いたところのドアを開くと広い空間に出た。前の戦隊ヒーローの事務所の道場のようなところとは違い、中もだだっ広い倉庫そのものだった。その半分ほどにミニュチュアの街並みが作られている。その街並みの周りには大きなビデオカメラや照明や何かの道具が無造作に置かれており、天井にも照明やらクレーンやら、はしごのようなものもあり、全体的は雑然としている。そのあちらこちらにまばらに人がいて何か作業を行っているようだった。
その一人が留美を見つけて、駆け寄ってきた。
「こんにちは、監督の滝川です。木隅さんとお友達の・・・・。」
「財前かおりです。」
「あー、財前さんね。豊田課長から聞いていたけど、美人だねー。いや、初対面の人に失礼だったね。木隅さん、早速撮影に入るんで着替えてもらっていいかな。」
「あっちに控え室があるので・・・」
監督の滝川は、今入って来たドアとは別のドアを指さした。
「佳代さん、ちょっと着替え手伝ってあげてー、あー、先にハーネスつけといてね。」
遠くから「はい、監督ぅー、分かりましたぁー」と、ジャージ姿の女性が近づいてきた。やはりどこもジャージだ。
「あのー、今回どんな着ぐるみを着るんでしょうか。」
留美はだいぶ着ぐるみには慣れてきていたが、一応何になるのか知りたいと思い、佳代と呼ばれた女性に尋ねた。
「鳥みたいな怪獣ですね。恐竜で言えばプテラノドンみたいな。吊るすのが重いんで女性専用にしています。あと、スタジオとの縮尺で少し小さめのほうがアングルが稼げるので・・・。あ、高所恐怖症とかないですよね。吊るすって言っても3、4mですけどね。先にハーネスつけて、着ぐるみ着て、ハーネスにワイヤーつなぎますので」
「いやー、楽しそうね。空、飛ぶんだー、私もやりたーい。」
吊るすぅー?、留美が聞き返す前に、かおりが食いついてきた。やりたーいって、いつもの冷静なかおりらしくなく、テンションが上がっているようだ。
「あ、着ぐるみ、小さいんですよ。そちらの方は身長があるんでちょっと入らないですね。あと、大きい方は体重も少し増えるのでロープワークが大変になるので・・・」
佳代と呼ばれた女性は申し訳なさそうに答えた。
「えー、残念・・・」
かおりは本当に残念そうにつぶやいた。
「あー、そうでした。吊るして撮影した後に、新しいブツが上がってきているんで、そっちの試着もしてもらいます。前がちゃんと見えるかとか、動きやすいかどうかとかのテストです。撮影はないです。」
「そっちも小さいの?」
かおりが速攻で尋ねた。
「小さいですね。同じスーツアクトレスさん用なんで。」
あなたは見学の身だろう、留美は言葉を飲み込んだ。