第2章 戦隊ヒロイン
今回は楽屋ブースではなく、どこかの控室のベンチのようだった。そこには戦隊ものの衣装を着た男性。どうも黒岩のようだ。そして黒岩のほうを見ていて顔が分からないが、小柄の女性がやはり戦隊ものの衣装を着て座っていた。手には飲み物らしきものを持っている。休憩中だろうか。
「だいぶ慣れてきたね。こっそり練習してるんじゃないの。堂に入ってるよ。」
「それほどでもないわ。黒岩さんの指導が良かったからよ。」
黒岩と女は親しげに話している。どんな関係なんだろうか。
「ステージが終わったらまたどっかに休憩に行かないか。腹ごなしも兼ねて・・・」
「いいわよ。こっちも今日はこれで終わりだから・・・」
「じゃ、後で。」
黒岩と女はベンチから立ち上がり、視界から消えた。
「留美さん、留美さん、大丈夫ですか・・・」
ふと気付くと留美の前にはマスク越しに黒岩が話しかけていた。
「え、えー・・・」
留美は先ほど見た幻想の整理がつかず、うまく言葉が出てこない。
「なんか固まってましたけど、どうかしました。まさか、閉所恐怖症じゃないですよね。体調がすぐれないなら、一回マスク外しましょうか。」
黒岩は心配そうにマスクを覗き込んでいた。
「いえ、ちょっと考え事を・・・」
留美は苦し紛れに答えた。考え事をするシチュエーションではないが、黒岩と女性が話していた幻想が浮かんだ、などと本当のことを言うのははばかられた。どうせ信じてもらえないし、二人の関係も気になる。黒岩の彼女だろうか・・・。そもそもあんなかっこいい男性が、一人ぼっちということはないだろう・・・。それとも、まさか将来の自分なのだろうか。留美は、高値の花とは思いつつも黒岩のことが気になりだしていた。
「大丈夫ならいいですけど、気分が悪くなったらすぐ合図してくださいね。」
黒岩の優しい言葉は留美にとっては新鮮だった。いままでの環境があまりにがさつ過ぎたのか、そこにいた同僚たちの性格なのか、相手を心づかうような言葉は掛けられたことがなかった。前の職場では自分もすさんでいくのではないか、いつもそう思っていた。今回の異動は思っていたものとは少し違ったが、居心地のいい職場だし、また黒岩のようなやさしい男性と巡り会えたことも人生の分岐点かもしれない。
「あ、ありがとうございます。」
留美は、いろいろな想いを胸に抱きつつ一言だけお礼をした。
ショーは滞りなく進み、その後も場所を変えて何回か繰り返された。黒岩とはその後1、2度会ったがあいさつ程度で深い会話をすることもなく、それ以外のステージではスプリングエージェンシーのいつも居るスタッフが戦隊ブラックを演じていた。
留美は、何度か舞台に立ち、同じマスクを被ったが、あの幻想を見て以来、何かの幻想を見ることはなかった。最初に見たセクハラおじさん、そして、黒岩、何の脈絡もない。留美自身と関係があるのかどうかも分からない。いったい何を見ているのか、留美には想像がつかなかった。
「だいぶ慣れてきたね。こっそり練習してるんじゃないの。堂に入ってるよ。」
「それほどでもないわ。黒岩さんの指導が良かったからよ。」
黒岩と女は親しげに話している。どんな関係なんだろうか。
「ステージが終わったらまたどっかに休憩に行かないか。腹ごなしも兼ねて・・・」
「いいわよ。こっちも今日はこれで終わりだから・・・」
「じゃ、後で。」
黒岩と女はベンチから立ち上がり、視界から消えた。
「留美さん、留美さん、大丈夫ですか・・・」
ふと気付くと留美の前にはマスク越しに黒岩が話しかけていた。
「え、えー・・・」
留美は先ほど見た幻想の整理がつかず、うまく言葉が出てこない。
「なんか固まってましたけど、どうかしました。まさか、閉所恐怖症じゃないですよね。体調がすぐれないなら、一回マスク外しましょうか。」
黒岩は心配そうにマスクを覗き込んでいた。
「いえ、ちょっと考え事を・・・」
留美は苦し紛れに答えた。考え事をするシチュエーションではないが、黒岩と女性が話していた幻想が浮かんだ、などと本当のことを言うのははばかられた。どうせ信じてもらえないし、二人の関係も気になる。黒岩の彼女だろうか・・・。そもそもあんなかっこいい男性が、一人ぼっちということはないだろう・・・。それとも、まさか将来の自分なのだろうか。留美は、高値の花とは思いつつも黒岩のことが気になりだしていた。
「大丈夫ならいいですけど、気分が悪くなったらすぐ合図してくださいね。」
黒岩の優しい言葉は留美にとっては新鮮だった。いままでの環境があまりにがさつ過ぎたのか、そこにいた同僚たちの性格なのか、相手を心づかうような言葉は掛けられたことがなかった。前の職場では自分もすさんでいくのではないか、いつもそう思っていた。今回の異動は思っていたものとは少し違ったが、居心地のいい職場だし、また黒岩のようなやさしい男性と巡り会えたことも人生の分岐点かもしれない。
「あ、ありがとうございます。」
留美は、いろいろな想いを胸に抱きつつ一言だけお礼をした。
ショーは滞りなく進み、その後も場所を変えて何回か繰り返された。黒岩とはその後1、2度会ったがあいさつ程度で深い会話をすることもなく、それ以外のステージではスプリングエージェンシーのいつも居るスタッフが戦隊ブラックを演じていた。
留美は、何度か舞台に立ち、同じマスクを被ったが、あの幻想を見て以来、何かの幻想を見ることはなかった。最初に見たセクハラおじさん、そして、黒岩、何の脈絡もない。留美自身と関係があるのかどうかも分からない。いったい何を見ているのか、留美には想像がつかなかった。