第1章 美少女着ぐるみ

 翌日からは、事務所での仕事となった。事務所は、ちゃんと本社ビルにあった。ただし、上層の階ではなく、なんと地下1階にだった。地下1階に倉庫があると、搬入、搬出の車が横付けできるので便利らしい。雨の心配もない。事務所の窓からは、地下駐車場と駐車場係のブースが見える。駐車場係のリタイヤ組らしいおじさんとは仲良くなりそうな場所だった。

 事務所は、前の会社のグレーの制服ではなく、ビジネスカジュアルで良かったが、逆に留美は制服生活が長かったため、仕事で使えるような服の持ち合わせがなく、少し服代にお金がかかりそうという新たな心配もでてきた。

 しかし、留美にとって新鮮だったのは、みんなの机の上に書類が全くないことだった。いや、書類どころか、電話もなければ、パソコンも何もない。ただ、机があるだけだ。前の会社とは全く違う。もちろん、前の会社は購買だったので伝票や台帳がないとできないという仕事でないせいもあるだろうが、それにしても、この部署は何もなくて仕事ができるのか。いや、そもそも人がいない。見渡すと、川島とあと1人いれば多いほうだ。豊田課長もほとんど事務所にいない。川島によると、川島と留美以外のメンバーは外回りが多いので、結局、全員、会社貸与のスマホとノートパソコンを支給されていて、作業はすべてオンラインで紙は廃止したとのこと。直行、直帰、会議はオンラインらしく、会社に来る必要はほとんどないらしい。イベントのときに全員顔を合わせる程度だそうだ。地下っていうのがいまひとつだが、さすが本社ということだろう。

 日々の仕事は、結構ルーチン化されていて退屈なものだった。イベントの注文が入ると、ひな形を使ってスケジュールを引き、会場、司会、音響、照明、内装、キャストなど手配していく。もちろん、イベントが近くなると、間に合わないとか、代わりを探すとか、結構戦場のようになってくるが、それまでは冷静に淡々と電話とメールで進行状況を確認していくだけだ。

 留美にとって、何より不思議だったのは、進捗会議以外、ほとんど職場に無駄な会話がないことだった。メンバーがいるときも、それぞれ黙々と自分の仕事を片付けている。プロ集団といった雰囲気だ。
 「さすが本社、一味違う・・」
 留美はいつも感心して周りを見回していた。摩天楼での上層でのハイブローな仕事は夢と消えたが、何かときちんとしている職場で少し期待が持てた。
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