第1章 美少女着ぐるみ

 「お疲れさん。はじめまして、木隅さんだね。ようこそ、GBプランニングへ。いきなり現場ですみませんでした。課長の豊田です。これからもよろしくお願いします。」
 いきなりドアが開いて、40歳くらいの男性が入ってきた。背広は着ているが、なんとなくラフで、さっぱりとした感じだった。
 「課長、いきなりドア開けたらだめですよ。あわよくば、留美さんの下着姿を見ようと思っていたでしょう。セクハラで訴えますよ。」
 川島が間髪を入れず、切り返す。
 「あー、すまん、すまん。その気が全くないことはないが、終了直後だから大丈夫かなーって思って。」
 「だから、そういうギリギリの線を狙ったらだめですって。営業2課の課長さん、懲戒喰らったらしいですよ。課長も気を付けないと・・・」
 「え、そうなの。やばいねー。わかった、わかった。木隅さん、初仕事どうでした、うちってこういう仕事が多いんですよ。特に、木隅さんの場合、結構着ぐるみの仕事があると思います。ちょっと、思っていたのと違いましたか。でも、すぐ慣れますから。」
 「はあ、よろしくお願いします。」

 留美は、現状の理解についていくのがやっとで、辛うじて挨拶だけは返すことができた。いや?着ぐるみの仕事だって、この人は何を言ってるんだ、留美にはますます疑問しか残らなかった。しかし客観的にみると、やはり本社は本社のようだ。とっさに留美の怪訝な表情を読んで言葉を掛けることができる、切り返しが早い。課長の豊田はどことなく鋭い感じがする。前の子会社のようなゆるい感じはしない。

 いやいや、そこじゃなくて仕事のほうだろう、留美は豊田の紳士な態度で仕事のことを忘れかけていた。
 「うちは派遣の資格も取ってるので、木隅さんは何日間かは別の会社できっちり着ぐるみアクトレスとして働いてもらうこともあります。でも、木隅さん、空手やってたんでしょう。すごいですね。体力自信ありますか。うちにはもってこいですね。是非、木隅さんの能力を発揮してください。」

 能力を発揮、着ぐるみで・・・?、留美は心の中で続けた。
「じゃ、それ脱いでもらったら、早いですけど今日はおしまいですから。明日は9時に事務所へ来てください。川島さんが付いて指導しますから。じゃ。お疲れさまでした。」
 といって、豊田は必要なことは告げ終わったようで、さっさと部屋を出ていった。

 まさかの展開。まあ、課長があれなら、職場の雰囲気は良さそうなので、少し様子を見るしかないか、などと高飛車に構えられる状況でもなかったが。留美は、入社以来、2度目の大失態を呪いつつ、また、上司へのあいさつがいきなりすっぴんだったことを悔いつつ、着ぐるみを脱ぎに掛かっていた。
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