第1章 美少女着ぐるみ

 壁の時計が、カチッ、カチッと時を刻む。
 紺のビジネススーツにショートヘヤー、少し小柄で、いかにもOLといった女性、木隅(きすみ)留美は小さな会議室の折り畳みテーブルに座り、静かに腕を組んで、目の前に光景に絶句しいていた。

 「これ、どういうこと・・・」
 会議室の片隅に広げられたブルーシートの上には、空になった段ボール箱と、無造作に広げられたピンクのドレス、肌色のタイツのようなもの、そしてなによりも何かのキャラクターのマスク、いわゆる美少女着ぐるみが用意されていた。マスクには金髪の三つ編みのかつらがついていて、アルプスの山村の写真に出てくる少女のようなイメージだ。どこか記憶の片隅にあるキャラクターではあるが、何のキャラクターかまでは思い出せない。

 「これを着ろと・・・なぜ・・・」
 留美の脳裏には、先ほどから答えのない質問が繰り返えされていた。
 つい数分前、「これ着ておいてね。自分じゃ無理だったら後で手伝うから・・・」。
 背の高い、人の良さそうなスーツの女性は明るく言い残して、「ちょっと用を済ませて来るから」と部屋を出ていった。着ておいてねと言われて、はい、そうですか、と素直に着られるような衣装ではない。
 「そもそも、なぜ私が着ぐるみを着る必要があるのか・・・」
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