ビクトリーラーメンマンシリーズ第5弾 渡り鳥

 「お客さん、お客さん、どうだった。大泣きしてるじゃん。」
 顔を上げると、そこは俺が飲んでいた居酒屋で、店主が少し笑いを浮かべて俺を見つめていた。
 「え、俺、寝てた?」
 店主の言う通り、俺はボロボロと涙を流していた。

 「何か悲しい過去を見てきたんだね。でも、すごく現実感があっただろ。」
 「どういうことですか。」
 俺には全く理解ができなかった。やはり夢だったのか。
 「いや、先に説明すると面白くないんで黙ってたんだけど、今出した焼き鳥の渡り鳥は、ただの渡り鳥じゃないんだ。この辺じゃ「時渡りの鳥」って呼ばれている鳥なんだよ。この鳥は冬にしか見られない鳥なんだが、島から島へ渡っていく姿を誰も見たことがない。一説では、冬を越えた後は、次の冬に向かってタイムリープしているんじゃないかって言われている。もちろん、証明したわけじゃないがね。そもそも数も少ないし、小さい鳥なんで、見かけることも少ないんだろうけどね。」
 「時渡りの鳥・・・。」
 俺はつぶやいた。

 「肝心なのはここからだ。この鳥は未来に向かって飛んでいくんだが、その反動で過去へ向かう何かを体に蓄積するんじゃないかって言われててね。それで、この鳥を食うと、食べた奴が過去にタイムリープするんじゃなかろうか、とね。もちろん本当かどうかわからんよ。お客さん、ボロ泣きしていたところを見ると、彼女に振られたときにタイムリープしたんじゃないの。ははは・・・、いや、笑うところじゃなかったね。」
 図星だ。しかし、タイムリープなんて本当に存在するのだろうか。過去のシーンを鮮明に思い出しただけだろうか。

 俺は涙をぬぐいつつ尋ねた。
 「ご主人、これを食べるとみんな過去に行くんですか。」
 「そうだね。みんな、食った後、泣いたり笑ったりして現実に戻る。とっても珍しいだろ。」
 確かに珍しい。タイムリープが実在するかどうかはわからないが、少なくともこれは報告するに足る食材だろう。
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