戦場の犬

「一体、何なんだ、貴様は。」俺は驚きの目で犬を見つめた。
 わずかに宙に浮いているのである。唐突に犬がしゃべった。
「何なんだ、とはなんですねん。わては犬に決まってますがな。あんたもわかってはりますでしょ。」

 おれは現実から逃避したかった。信じられなかった。犬は当惑している俺にかまわず続けた。
「なんで、わてがおたくを助けたんか不思議に思ってはるんでしょ。わかってますで。実はな、神さんがな・・・」
「え、なんだって」犬の不気味なオーサカ弁に戸惑い聞き返した。

「神さんですがな。キリストとかシャカとか呼ばれてまっしゃろ。その神さんがな、おたくがある出来事について、ある役割をしはりますねん。それがは、わりと重要でな・・・あ、こらしもた。つい口をすべらせてしもた。ま、とにかく今回はおたくに死んでもろたらあかんから助けぇ、ておっしゃりましてんな。そいで、わてが来たいうわけです。

 さあ、そいじゃ、わては消えまっ。まあ頑張って生きておくんなはれ。自分で頑張らんとあかんのですよ。しかし、人間の武器も効きまんなあ。こら、からだが痛とうて、かなわんわ・・・」
 犬はなにかぶつぶつ言いながら消えて行った。

 おれはもう何も考えることができなかった。夢だと思いたかった。
 おれは笑いながら泣いていた。だが、この絶望的な戦場において、自分の生きるわずかな意義を見いだしたような気分になったことは確かだった。
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