戦場の犬

 ほんの偶然の出来事だった。ただ何気なく左のモニターを見たとき、外気よりわずかに高い温度の熱源体を見つけたことは。昼間なら絶対発見できない熱源体。何だろうか。コンクリートの柱をぬってわずかに流れ出す熱。すべての駆動モーターは止まり、ソナーが最大感度で働く。・・・呼吸音。テンポが速い。子どもだろうか?とにかく確かめる必要があった。

 おれは“四つ足”の防御機構をフルオートにし、外に出た。
 この時期にしては寒い。おれは銃を構え、地面とは言いかねる都市の残がいの上を進んでいった。突然「ワン、ワン、ワン・・・」

 一瞬俺は伏せた。日頃の訓練は恐ろしい。“犬だな”と思いつつも、体は意思に反した行動をとる。俺はコンクリートでしたたか打ち付けた顎をさすりながら立ち上がり、声の方へ寄って行った。そして、ライトをつけると、そこには犬が何か布のようなものにからまってもがいていた。ポインターだろうか。にしては小さい。毛の色からは判断できなかった。・・・汚れて全体が茶色だったから。

「どじな奴だなあ。そんなことじゃ生きていけんぞ。」俺は、生存者に与える栄養食を鼻先に投げてやっておいて、近づいて行った。犬は安心したのか、後ろ脚にからみついた布をほどくときも、うなり声一つ上げなかった。昔は人に飼われていたのだろうか。あえて“戦場の犠牲者”という言葉は使いたくないが。

 おれは紙皿に水を与えておいて、
「それじゃな、ワン公。彼女のココアが冷めちまうんでヨ。」と言い、その場を去ろうとした瞬間、全く予期せぬ事が起った。
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