戦場の犬

Neo Lunatics 36号 (1982年9月3日発行) 掲載

   戦場の犬

                           -修.

 街は戦闘の傷跡を残して、ひっそりと静まり返っていた。建物は崩れ、道はその名残さえとどめないほど変形し、そして・・・そして所々に誰にも片づけられない死体がころがっていた。その町にまた夜が何事もなかったかのように訪れようとしている。

 今、その町を動く影があった。押し殺したように、わずかにモーター音を出し、4本の足でゆっくりと進む機械。それは戦争の生み出す技術の結晶であり、と同時に、すべての悲しみ生み出す根源でもあった。が・・・

「以上報告、こちらTX-5広谷、異常なし。そろそろ帰るぜ。」
「本部了解。熱いココアでもいれて待ってるわよ。以上」
 相変わらずだな、あの娘は。おれはモニターテレビから目を離し、外を見ながら、思った。この血なまぐさい戦場でよくもまあ平静を保っていられるものだ。まあ、彼女もこの“四つ足”に乗れば少しは変わるかもしれんが・・・少し前に赤外線画像に変わった外部モニターに、横たわって動かない人が映っていた。彼らの体温の外気温と同じ・・・しかし、ここで落ち込んでいる暇はないな。死んだ奴は死んだ奴だ。生きているものはそれなりに生きていくしかないんだ。
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