通常、ＡＩなら画面に人の顔の生成画像を表示すれば良さそうなものだが、行動心理学では何かの実体のあるものが必要と判断されているようだ。かといって、あまりに人間に寄せすぎると、部下が違和感を持つということでこのような外形になったらしい。しかし、話すときの「コーホー」というのは何か別の映画のキャラが混じっているような気がすると俺は常々感じていた。

　「コーホー、甲斐さん、反応が薄いようですが、コーホー、ちゃんと聞いていましたか、コー。」
　「あ、すみません。別のことを考えていて・・・。」
　ＡＩロボットと舐めてはいけない。課長は目がどっちを向いているかくらいしか表情がないが、向こうはこちらの顔の筋肉の反応や口調から集中度や感情まで推測できるらしい。
　「コーホー、では繰り返します。コーホー、次は火鍋の惑星で食材調査をしてきてください、コーホー。」
　「あー、わかりました。何か辛いものが多そうな惑星ですね。行ってきます、コーホー。」
　俺は少し課長の真似をしてみたが、完全にスルーされてしまった。残念ながらＡＩには冗談が通じない。いや、通じたかもしれないが、課長のピンク色の目は正面を向いたままで反応は計り知れなかった。極めてやりにくい。

　俺は、人呼んで「ビクトリーラーメンマン」。とは言っても別に格闘家ではない。俺は汎銀河コングロマリット「ビクトリー・ラーメン社」の食材調査担当の単なるサラリーマンだ。ビクトリー・ラーメン社は「食」と名のつくものならなんでも扱っている。食品はもちろん、食堂建築から、食器洗い機、果ては食虫植物の観賞用キットなんてのも扱っている。そして、人々は我々社員をビクトリーラーメンマンと呼ぶのだ。