N博士の発明

N博士の発明
                          ー修.

 「博士、今度こそ大丈夫なんでしょうね。今回失敗したら、研究資金の提供は打ち切りますからね。」

 投資家たちは度重なる実験の失敗に焦りを感じていた。N博士は百年、いや千年に一人と言われるほどの天才で、夢の反重力装置の実現も間近に迫っているように感じられた。

 もし反重力装置が実現すれば、宇宙開発が一気に進み、投資家たちは莫大な利益を得ることになるはずだ。このため、投資家たちは破格の研究資金の提供を行ってきた。しかしながら度重なる失敗にそろそろ見切りをつけるべきかと思い始めていたのだ。

 「大丈夫だ。だてに何度も失敗してきたわけではない。今度の反重力装置は上空100mまで無重力場を作り出し、装置はその中を上昇していくはずだ。」

 N博士と投資家たちは、万一に備え、反重力装置からかなり離れた場所に設けられた防爆監視設備からモニター越しに実験を見ていた。
 「それでは動作させるぞ、3、2、1、上昇。」
 N博士はおもむろにスイッチレバーを押し倒した。

 その瞬間、反重力装置はあとかたもなく消え、装置があった場所には土煙が上がり、小さなつむじ風が吹いていた。N博士はすかさず叫んだ。

 「成功だ。反重力装置は一気に上昇したんだ。」
 一方、投資家たちは怪訝な表情でモニターににじりよった。
 「本当ですか。我々には爆発して消し飛んだように見えましたけど・・・」
 「むむむ・・・。」

 N博士は言葉に詰まった。投資家たちはさらに続けた。
 「反重力装置は今どこを飛んでいるんですか。モニターを見る限り見えませんけど。」
 「いやいや、成功しすぎて遠くへ飛び去ったに違いない。」
 N博士の言葉は、苦し紛れの言い訳にしか聞こえなかった。
 「やはり、反重力装置は幻の大発明だったようですね。大変残念ですが、研究資金の提供は打ち切ります。では、今後もがんばってください。」
 がっくり肩を落とすN博士を背に、投資家たちは立ち去って行った。

 N博士も投資家たちも実験は失敗と思ったが、実は反重力装置はその目的を達成していた。反重力装置の上空100mまで地球引力は無効化され無重力場が形成された。

 しかしながら無効化されたのは地球引力だけではなかった。同時に分子間力も無効化されてしまっていた。このため反重力装置とその周りの空気は一瞬のうちに原子単位に分解し、ブラウン運動でばらばらになり、地球の自転による遠心力によって上空へと散ってしまったのだった。まあ、しかし、目的は達成したものの、失敗には違いなかった。
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