ノーツーリズム

 ノートリム号の乗組員は社宅へと案内された。社宅は殺風景ではあったが、設備は十分に揃っており、すぐに生活を始めることができた。社宅には共同の食堂があり、ロボットが24時間、常に20品ほどの料理を準備し、いつでも、いくらでも食事をすることができた。ロボットの説明によると、毎日お客様向けの食材を大量に準備しており、その一部でお客様に出す料理と同じものを食堂で出しているとのことだった。料理は2000種類ほどあり、世界中の最高級の料理が日替わりで出されているようだった。またアルコール類も日々廃棄する分が回ってきており、驚くことに飲み放題であった。

 乗組員に与えられた監査業務は官能検査と言われるものであった。ニューミコノス星のサービスは完ぺきに計算された最高ものであったが、開発者は万一のことを考え、定期的に本社の人間によるチェック制度を組み込んでいたのだ。このため、乗組員はお客と同じサービスを受け、アンドロイドの接客、料理、会話、観光内容に問題や不足がないか五感で判断し、チェックリストでチェックすることが求められた。

 ニューミコノス星の娯楽は多岐にわたり、食事の試食はもちろんだが、マリンスポーツ、スカイスポーツ、登山などの体を使った体験型レジャー、カジノ、ビリヤードなどのインドアレジャーなどもあり、クルージングや遊覧飛行では子供の意見も聞くため家族も参加しての監査が求められた。

 レジャーとは言え、連日監査を行うとへとへとになってしまい、休日は社宅の食堂で乗組員同士でだらだらと過ごすというのが習慣となっていた。ある日、乗組員達はいつものように酒を飲みながらつぶやいた。
 「毎日は大変だが、これって給料をもらって、富裕層の娯楽を楽しませてもらっているっていうことになるのかな・・・。」
 「そういえば、そうだな。」

 ニューミコノス星のロボットやアンドロイドには感情はなかったが、久しぶりの客に通常より生き生きと対応しているように見えた。
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