ノーツーリズム

 定例会議から数時間後、5年ぶりに通信が入った。レーダーには小型の星間連絡船が捕捉されていた。

 「こちらは連絡船ノートリム号。30名の戦争難民が乗っている。子供も何人かいる。ニューミコノス星への着陸と、難民受け入れを許可してほしい。」

 人工知能協議体は直ちに対策の協議に入った。用意された数万ページ分のマニュアルには、戦争難民については管轄当局へ連絡し、指示に従うようにと書かれていた。しかし、通信が断絶しており、指示を受けることは期待できなかった。

 「こちらはニューミコノス星。残念ながら、当局の指示が得られませんので、着陸の許可ができません。」
 「当局の許可だって。今、覇権争いの全面戦争の真っただ中で政府は機能していない。この星はかなり離れているので戦争の影響を受けていないだけだ。我々は食べ物もわずかで、生命維持装置もぎりぎりの状態だ。命かながらようやくここまで逃げ出してきたんだ。他に行くところがないんだ。なんとかしてもらえないだろうか。」

 人工知能協議体は沈黙した。マニュアルには当局が戦争状態で回答できない場合は想定されていなかった。人工知能協議体が自己判断するしかないが、ニューミコノス星の信頼性、安心感など、今後の評判に関係してくるため安易な判断はできなかった。

 「そうだ、客としてなら受けれてもらえるよな。」
 連絡船から新たな提案が示され、人工知能協議体は即座に回答した。
 「もちろん、お客様であればいつでもお迎えできます。ただ・・・、大変失礼ですが、お客様はお支払いができますでしょうか。滞在費用はかなり高額となりますが・・・」
 「この連絡船を買い取ってくれれば、かなりの金額になるはずだ。数年は大丈夫だろう。」

 人工知能協議体はレーダーで得た情報から連絡船の価値を算出した。
 「お客様、ノートリム号の買取金額ですと、30名様で10日間ほどの滞在が可能ですが、その後チェックアウト後の移動手段がなくなりますので、残念ですが受け入れられません。」
 「たった10日分にしかならないのか・・・。」
 「はい。当星は富裕層の方向けですので、かなり高額となっております。」
 「他には手はないのか・・・。俺たちに死ねというのか・・・。」
 人工知能協議体は再び沈黙した。

 このまま見殺しにすると評判は地に落ちるだろう。最も革新的な思考アルゴリズムを与えられた人工知能協議体アルファが他の2つの人工知能協議体へ提案した。
 「従業員として雇ってしまえば良いのでは・・・」
 保守的な思考アルゴリズムを与えられた人工知能協議体ベータが即座に実現可能性を検討して答えた。
 「人間の接客しか受け付けないお客様のために人間の従業員を雇うケースを想定して、100世帯収容の社宅や社食を持っているので、受け入れは可能だ。」
 客観的な思考アルゴリズムを与えられた人工知能協議体ガンマは現在の状況から必要性を検討した。
 「本社による有人監査が5年滞っているのでそれをやってもらおうか。」
 2つの人工知能協議体もそれぞれ方向性の異なるアルゴリズムから人工知能協議体アルファの提案を妥当と判断し、それぞれ宿泊施設などの再稼働や監査要領書の準備を担当するアンドロイドやロボットへ指示を出した。

 そして人工知能協議体は即座に回答した。
 「ご提案ですが、従業員としてなら受け入れが可能です。皆さんには社宅が貸与されます。お子様は教育を受けていただきます。働いてもらう以上、高くはありませんが給与も支払います。これでいかがでしょうか。」
 「ありがとう。これで我々は救われる。どんなきつい仕事でもやるよ。」
 連絡船から歓声が上がっているのが聞こえてきた。

 乗組員は続けた。
 「連絡船はぎりぎりの状態で航行しているので着陸をサポートしてもらえないだろうか。それと念のため聞いておきたいが、もし戦争がこちらまで及んできても大丈夫か。」
 「着陸はこちらから牽引ビームで行いますので全く問題ありません。また、富裕層の方はご自身の安全を最大限優先されます。このため対空防衛設備はかなり力を入れております。戦艦の1隻や2隻では陥落しません。万一、特殊部隊が潜入したとしても数万の自動機械が瞬時に掃討致しますのでご安心ください。」

 ニューミコノス星は、立てたコインを倒すことない精度で大型観光船を着陸させることができる牽引設備を持っていた。このため連絡船は乗組員が気づく間もなく着陸していた。
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