ノーツーリズム

ノーツーリズム
                           -修.

 「来ないなー。」
 「来ませんね。」
 「かれこれ5年になるか。」
 リゾート惑星「ニューミコノス」を統括する3つの人工知能協議体アルファ・ベータ・ガンマは定例会議で相互につぶやいた。

 富裕層向けに惑星全体をリゾート開発したニューミコノス星には毎日多くの観光客が訪れていた。しかしながら、5年前から定期便も観光船も一切寄港せず、通信も断絶して完全に孤立した状態となっていた。孤立したとはいっても、ホテルや観光施設の運営から、農業、工業、すべての活動は、百万を超える数のロボットやアンドロイドが実行しており、観光客がいない場合ニューミコノス星はそもそも無人星だった。

 「農畜産物、海産物、鉱山の生産状況は。」
 「問題なし。」
 「機械・施設のメンテナンス状況は。」
 「順調に実施。」

 確認するまでもなくすべての活動が順調であったが、人工知能協議体はプログラム通りに相互確認作業を行っていった。ニューミコノス星の最大収容人数は約1万人であり、かなりレベルの高い、いわゆる富裕層の観光客を満足させるために、毎日1万人分の豪華な食材が調達され、そして今は廃棄されていた。また、惑星の随所に設けられた観光施設もいつでも再稼働できるよう整備だけが続けられていた。

 「通信は回復したか。」
 「回復していない。」
 「対策案は。」
 「なし。」
 こちらも長らく、同じ質問と回答が繰り返されていた。ニューミコノス星には通信機以外に惑星外へ働きかける手段は用意されておらず、自ら原因を探りに行くということはできなかった。

 「それでは定例会議を終了する。」
 数ミリ秒で定例会議は終了した。
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