ヒーラーの憂鬱

 ある日、受付から直接俺に電話があった。患者の中に、黒い衣装に、羽根としっぽのコスプレをした変な人が並んでいるが、そのまま通してもよいかという連絡だった。俺は警備会社にも伝え、最大限注意しつつ話を聞くことにした。その人が動く歩道に乗って目の前に来ると、突然時間が止まった。
 「あのー、自分はこのあたりを仕切る悪魔なんですけど、あなたが治療しまくっているんで魂の数が激減しているんですよね。なんとかできませんか。」
 「え?本物の悪魔ですか。」
 「もちろんそうです。時間が止っているでしょ。なんなら魂をもらわずに願いを1つ叶えますけど、それで手を打ってもらえませんか。」
 別に俺に断らなくても悪魔なら好きなようにできるのでは、と思いつつも、俺は使命を思い出した。
 「いや、俺はこの能力を神様からもらったので、使命を果たしているまでです。何も望みはありません。」
 「すごく献身的なんですね。まあ、神様を持ち出されると、こちらも無理強いはできないので・・・。」
 悪魔は消え、時間が元通り動き出した。俺は、障害や病気をこの世から無くしたいだけなのに、なぜこんなに厄介事が次々に起こってくるのだろうか。

 その直後、また受付から直接俺に電話があった。今度は、白い衣装に、羽根と頭に輪っかが乗ったコスプレをした人が並んでいるという連絡だった。
 「好きにしてくれ。」
 俺は電話を切った。 
                          おしまい
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