メタル・ベンディング・パーティー

 このとき、すでに異変が始まっていた。スタジオの明るい雰囲気の中、ディレクターの顔はほころび、楽しく超能力の話が続いていた。しかし、その異変は確実に起こっていた。誰にも、そして本人にも気づかれず現象は進行した。それは3日ほど後になってわかった。アシスタントの女の子の手にあったマイクが、わずかに曲がってしまったのであるが・・・。

 あちこちの家庭でもそれは起こった。食事中の家庭では、はしが、スプーンが、ナイフが、フォークが、さらにはテーブルがわずかだが曲がった。
 しかし、それはあまりにわずかであったため、誰も気がつかなった。

 九州沖を進むタンカー。月明りの下、波も静かで極めて順調な航海であった。そして、甲板のほぼ中央、一人の船員が涼んでいた。ラジオを持って・・・。「曲がれ」-彼の下には巨大な鉄の塊があった。船は曲がった。が、それは無視できる範囲であった。
 飛行機では、事態は深刻であった。成田空港を飛び立った最終便があった。そして、一人のビジネスマンが聞くともなく、ラジオをつけていた。「曲がれ」-操縦系統が寸断された飛行機には落ちるほかに道はなかった。
 地上でもそれは起こっていた。高速道路を飛ばす車、車、車。「曲がれ」-ハンドルが曲がった車もあった。車体が真っ二つに折れた車もあった。高速道路は修羅場と化した。

 そして、ここ病院の産科病棟では最もおぞましいことが起きようとしていた。大きなおなかをかかえた一人の婦人が雑誌を手に、ラジオを聞いていた。「曲がれ」-彼女が、根性の曲がった子供を産むことになろうとは、誰に予想がつくはずもなかった。
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