ここ掘れワンワン

「花咲家には代々伝わる家訓がある。1つはポチの言うことには従うこと、そしてもう1つは、金に余裕があれば新たな土地を購入することだ」
「なるほど、だからこの辺りは、見渡す限り、すべて花咲様の所有なわけですね。
 じゃあ、今回の大穴も、ポチがここを掘れと言ったのですか?」

「そういうことだ。17代目にあたる、このポチが、半年ほど前に、我が家の軒先を掘れと騒ぎ出した。そこで、私がスコップで少し掘ってみたのだが何も出てこなかった。しかし、ポチはここ掘れワンワンと騒ぎ続けた。
 それでショベルカーをレンタルして穴を広げ、掘り下げてみたがやはり何も出なかった。余談だが、代々、頭首はショベルカーの免許を取得することになっている」

「ポチって間違えることもあるんですかね?」
「大いにある。過去、掘ったが何も出なかった例は数多い。
 しかし、一方、我が家の家訓には従わなければならない。
 ポチが掘れと言い続ける限り、掘り続けなければならないのだ」

「家訓に従うのも大変ですね」
「私はさらに深く広く掘り進めるため、重機メーカーから、最新型の自動運転パワーショベルとダンプカーをレンタルし、作業を続けた。
 途中で、自宅が穴を広げる障害になったので、家は解体し、今はペット同伴可能なホテルに住んでいる」

 鈴木は、花咲家が莫大な資産を持っているからこそ実現できることだが、ここまで大がかりに穴を掘る必要があったかは疑問のままだった。
「で、何か出たんですか?」
「いや、残念ながら何も出ない。
 それどころか、3日ほど前からポチがここを掘れと言わなくなったのだ。それで、パワーショベルやダンプカーを返却し、今回はポチの間違いだったかもしれないと思い始めていたところだ」

「そうだったんですね、お気の毒に・・」
「それで、未練たらしいが、今日は散歩がてらポチを連れて大穴を見に来ていたのだ。しかし、急にポチがドライブに連れて行けと言い出したので、この有様だ」
「はぁ・・・」

 既に20分程走っただろうか、途中でポチが右を向いてワンと吠えたら右へ、左を向いてワンと吠えたら左へハンドルを切り、車は大穴を取り囲む山々の一つの裏側まで達していた。
 すると、突然、ポチは前足をダッシュボードから外し、助手席に伏せた。

「うん、目的地に到着ですかね。丁度、山の裏側ですね」
 鈴木がドアを開けようとするのを見て、花咲頭首が警告した。
「ちょっと外に出るのは待ちたまえ。ポチが外に出たいときはドアを引っ搔くのだが、今は伏せている。これは中で待機していろということだろう」
「そうなんですか・・・」

 鈴木が、どれほどポチに従うんだと思っていたとき、突然、周囲に閃光が走った。それとほぼ同時に、激しい揺れが襲ってきて高級車は上下に大きく揺さぶられた。
「な、なんだ? 爆発か?」
 鈴木は思わず声が出ていた。

 そして数分が経った頃、ようやく落ち着きを取り戻した二人は車の中から周囲を見渡した。
 周囲の薄い砂埃ごしに、山の向こう側に噴火のような煙が立ち上っているのが見えた。

「あれは何ですかね? 噴火でしょうか?」
「うむ、丁度、大穴のあたりから立ち上っているようだな・・・。最初の閃光からすると、爆発か、隕石じゃないだろうか・・・。どちらにしろ、我々が無事だったのは奇跡だな・・・」
 ポチは相変わらず何事もなかったように助手席で伏せていた。

 花咲頭首の予想は半分当たっていた。直径百メートルはある巨大な隕石が燃え尽きることなく落下し、大穴に命中していた。
 平地に激突していれば、周囲は岩や砂が混じった爆風により莫大な被害が出たところだった。しかし、隕石が穴に命中し、地下深く潜ったため、爆風は発生せず、地震のような上下振動と、穴から垂直に砂煙が立ち上っただけで済んでいた。

 ポチがここ掘れワンワンと言った大穴からは何も出てこなかったが、別の面で花咲家の財産は守られることとなった。

おしまい
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