ここ掘れワンワン

                                -修.

「花咲さん、ここにおいででしたか。私、市役所の環境課の鈴木と申します」

 車から降りて話しかけてきたのは、上下濃紺の制服に「鈴木」と書かれた名札を付けた40代くらいの男性だった。そして、その横には、同じ制服に「大神」の名札を付けた若い女性が立っていた。

「市役所の方が私に何の御用でしょう。今、ちょっと取り込んでいるんですが・・」
 答えたのは、この辺り一帯の土地の地主であり、また名家でもある、花咲家第10代頭首であった。

 花咲頭首は、直径500m、深さ300mはあろうかという、巨大な穴の縁に佇んでいた。この大穴の内側には、トラックが下へ降りていくための通路も設けられている。その大穴はさながら、露天掘りの鉱山のようであった。

「はい、この大穴のことについて伺えればと思いまして・・・」
「それは構わんが、今、ポチがドライブに連れて行けとせがんでいるのだ。道すがら説明するので、どちらか私の車に乗ってくれないか」
 花咲党首が指さす足元では、柴犬のポチがズボンの裾を咥えて引っ張っていた。

「ドライブ? 分かりました。じゃあ、私が同乗させてもらいます。大神さん、後ろから車で付いてきて」
 女性は小さくうなずいた。

 花咲頭首の車は欧州の高級外車であった。花咲頭首が運転席のドアを開くと、我先にポチが乗り込み、前足をダッシュボードに掛けて助手席に立った。
「慣れているようですね」
「ああ、いつも乗せてやっているからな。さあ、今日はどこに行こうとしていることやら・・」

 花咲頭首が車を出したタイミングで、後部座席に座った鈴木が質問した。
「あのう、それで大穴の件なのですが、どういう経緯でこのような大穴を掘ることになったのでしょうか?」
「うむ。話す前に、君はこの市に来て長いのかな?」
「いえ、まだ5年くらいです。県からの派遣なので・・・」
「では、知らないかもしれないな。先に花咲家の歴史から話そう」
 ポチは正面を見据えたまま助手席に立っていた。

「我が花咲家のルーツは江戸時代に遡る。花咲家で飼っていたポチが庭で大騒ぎするので、ご先祖様がそこを掘ってみたところ、金銀財宝が出てきて、花咲家は栄えることになった。
 それ以降、花咲家では、代々、ポチの子孫の犬を飼っているが、まれに金銀財宝やレアメタルの鉱床を探し当て、当家は未だに栄え続けている」
「それはすごいですね・・・」
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