時の墓標

 俺はインターコムを腕にはめたままドアのロック機構に押し当て、このコンピューターのオペレーター達のことを思った。都市に何が起こったにせよ、コンピューター本体と共にあるこのオペレーションルームにオペレーターは来たはずだ。

 誰でも入ってこれる訳ではなく、また最も強固な外壁を持ち、あらゆる外乱からコンピューターとオペレーターを保護してくれるこの部屋は絶好の非難所となったはずだ。

 さらにコンピューターを操作すれば、どこで何が起こっており、またどこが安全か、またどこに食料や武器や薬品があるかを知ることも出来る。複数のサブコンピューターが有機的に統合され、人知を越えて複雑化したシティコンピューターは都市内のあらゆることを把握し、制御する程協力なものとなっていたはずだ。

 インターコムの通信終了ブザーとともに、オペレーションルームの入り口である重厚なドアは10年以上の歳月を忘れさせる程、すんなりと開いた。

 俺の目の前には予想したより狭いオペレーションルームが開けた。誰もいないオペレーションルームは、ほんの今まで人が操作していたかのように、コンソールのディスプレイには様々な情報が映し出されては消えていた。

 俺はオペレーションルームの中に足を踏み入れ、ディスプレイに表示された情報をしばし眺めた。それらの情報は全て否定的なものであった。

 都市の倒壊個所を示す情報、どこの監視カメラが使用不能とか、食料工場からの物資が未納とか、それらは手足をもがれても生き続ける、強固なシティコンピューターの悲しさを印象づけるものであった。

 これなら必ず都市の破滅の履歴が残っているはずだ。俺は少なからず期待を覚えた。多くの謎を残して、人っ子一人いない廃墟と化してしまった都市の、というよりフィアイーガ全体の謎が解けるかも知れないのだ。
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