時の墓標

 俺は3年前の記事を思い出してうなづいた。トレーダー達は幸運であった。

 植民星フィアイーガに到着してはみたものの、都市は荒廃し、交易を行なうどころではなく、都市には掠奪や暴力が蔓延していた。トレーダー達は何とか都市から脱出し、周辺部のさびれた村落を回り、母星へ帰るのにぎりぎりの食料を手に入れ、残り少ない燃料を節約しながら何とか帰りついたのであった。

 この事実は全惑星連邦の同じような境遇の各植民星に報じられ、多大な反響を巻き起こした。ややあって船長が言葉をつないだ。

 「都市の荒廃の原因はわからないか?」
 「・・・・・。」
 俺は無言で首を横に振った。
 「そうか・・。では、予定通りシティコンピユーターへ向かってくれ。あそこなら何か情報が得られるに違いない。われわれもそちらに合流する。」
 「了解。」

 俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに船長は通話を切った。左腕のインターコムのディスプレイには、船長の顔に代わって俺の現在の健康状態がモニターされた。

 船長との会話で若干気分が落ち込んだせいか、インターコムからはわずかにアドレナリンが投与されているらしく、インジケータが赤く染まっている。

 インターコムは宇宙船乗りには必需品と言えるものである。精神的に急激なショックを受けた時には、冷静な判断を得るためにインシュリンを皮下注射し、また、宇宙活動の際に肉体的にダメージを受けた時には何とか死なずにすむようにアドレナリンを大量に皮下注射するコンピューターが組み込まれている。

 俺は麻酔銃を構え、ビルとビルの間の路地やビルのショーウィンドウの奥の暗がりに注意をはらいながら、都市の中央部へ向かって足を進めて行った。
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