時の墓標

 「前哨艇2号、応答せよ、こちらグレート・クエスト。前哨艇2号、応答せよ。」左腕にはめたインターカムを介して、軌道上の調査船グレート・クエスト号からの連絡が入った。俺は、タラップの最後の数段を飛び降り、調査船より送られてきた画像を表示しているインターカムを口もとへ近づけた。

 「こちら、前哨艇2号、田村。着地完了。今外に出たところだ。」
 「こちらグレート・クエスト、地上の様子はどうだ。」

 話しているのは船長である。調査船グレート・クエストは、乗員5人、前哨艇3隻を持ち、10年程度の無寄港調査の可能な中型の恒星間調査船である。

 船長は、軍隊上がりの学者らしく、軍隊特有の規律正しさと、学者風の何にも囚われない自由な思想を合わせ持った独特なキャラクターの人物であった。俺はそんな彼の思慮の深い顔の映像を眺めながら話した。むろん船長も俺の顔の映像を見ているはずである。俺は左腕を捻ってインターカムのカメラに町の映像が入るようにして答えた。

 「ご覧のとおり、ひどいもんだ。入っ子一人いない。都市は完全に死滅して、風化が進んでいる。まるで古代の遺跡に来たようだ。いわば都市の墓場だな。」

 俺は、公園の枯れ果てて枝ばかりとなった木々の間を抜けて、アスファルトの割れ目に雑草が生えた街路の方へと歩き出していた。路上には人々の足であったに違いないシティコミューターが軌道をはずれ、薄汚れたビルのショーウィンドーに大きな穴を開けて止まっている。

 「やはりそうか。3年前に命からがらに帰り着いたトレーダー達の話は本当だったようだな・・・。」
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