N博士のヤマト

                          -修.

「N博士、お久しぶりですね。私を呼び出したということは、何か新たな発明をされたのですね。」

 千年に一度の天才と言われるN博士には、投資家たちがこぞって資金を提供していた。そして、投資家たちは、N博士の発明をいち早く把握し、事業化して資金を回収するために専属のエージェントを付けていた。

「確かに久しぶりだな。」
 白衣を着た初老のN博士は、親しげにエージェントを出迎えた。
「実は、最近、発明に行き詰っていたのだ。そこで、ラボの外に出て、夜風に当たり、星空を眺めながら、新たな気持ちで考えてみようと思った。」

「気分を変えてみるのはいいことですね。」
「しかし、私の思考を邪魔する奴がいたのだ。」
「え、そんな不届きな奴が居たんですか。すぐに警備を手配しましょうか・・・」
「いやいや、もう解決済だ。今回の発明はその対策品なのだ。」
「ほー、いったいどういうことですか?」

「うむ、私の思考を邪魔する存在、それは蚊だ!」
 エージェントは、ずっこけるのをかろうじて我慢した。
「蚊、ですか・・・」
「左様、私の耳の回りでブンブン言うわ、手や足を刺すので痒くなるわ、ろくなことはない。そこで、良い発明を生むためには、まず蚊を退治することだと決めた。」
「ほう・・・」

「見たまえ・・」
 博士が差し出した右手には、小さなドーム状の物体が載っていた。ドームはまるで天文台ように、中央にスリットが入り、何かの装置がのぞいていた。そしてドームの両側にはマイクらしきでっぱりもあった。

「これは何ですか?」
 N博士は自慢げに答えた。
「これは、名付けて『蚊取砲』だ!」
「蚊取砲ですか。なんか物騒なネーミングですね。」

「いやいや、これは極めて安全なものだ。君は世間で、レーザー蚊取というのを売っているのを知っているかね。」
「AIが蚊を識別して、レーザーで狙い撃ちする奴ですね。」
「そうだ。しかし、レーザーがもし人の目にでも当たったら、大変なことになるだろう。だから、私は、もっと安全な方法がないか、いろいろな文献を調査したのだ。そして、画期的な撃退法を見つけた。」
「いったい、それは何ですか。」
「ほら、赤いタイツを着て、手から蜘蛛の糸を出す人がいるだろう・・」
 エージェントは「アメコミですね」という言葉を飲み込み、小さくうなずいた。

「この蚊取砲は、蚊を見つけると、小さなねばねばした水滴を発射する。まあ、インクジェットプリンターの応用だな。そして、水滴は、空気中で少し広がり、蚊に当たって羽根を接着しまうのだ。水滴なので、もし人に当たっても全く問題ない。」
「それは安全ですね。しかし、ねばねばした液体が床に落ちると、床中、ねばねばになるのではないですか?」
「そこが一番苦労した点だ。この液体は蚊が地面に落ちる前に完全に固まるように調整している。だから、床はさらさらのままだ。
 さらに言うと、環境にもやさしいように作っていて、この液体は人が食べることができるのだ。庭で、蚊を落とすと、小さな塊になって、蟻や小鳥のえさになり、庭が蚊の死体だらけになることもない。」
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